金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2016年5月30日

金沢大学第三内科(血液・呼吸器内科)全体写真

全体写真


金沢大学第三内科(血液・呼吸器内科)全体写真です。

いつもお世話になり、ありがとうございます。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

 

 <リンク>
血液凝固検査入門(図解シリーズ)
播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:55 | その他

2016年5月24日

血小板数低下:PT・APTT正常、異形細胞なし、紫斑(あざ)

CBTの再現と解説です。試験を受けた学生さんの記憶による再生のため、正確ではない部分があるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いいたします。


20代の女性.易疲労感を主訴に来院.月経は正常.腕にあざがある.
検査の結果,赤血球350万,白血球6000,血小板1.5万,PT・APTT正常.
骨髄穿刺では異形細胞が認められなかった.
診断はどれか.


a 悪性貧血
b 鉄欠乏性貧血
c 再生不良性貧血
d 自己免疫性溶血性貧血
e 白血病
f 血友病
g 遺伝性球状赤血球症
h サラセミア
i VonWillebrand病
j 特発性血小板減少性紫斑病
k 消化管出血
l 子宮筋腫
m 妊娠



(ポイント)
血小板数の著しい低下が、目立った異常所見です。
紫斑も見られています。
Hbのデータが不明ですが、貧血もあるかも知れません(易疲労感のため)。
一方で、PT・APTTは正常です。
骨髄に異形細胞はないために、造血器悪性腫瘍は否定的です。

(正答) j


(選択肢)

a 悪性貧血:大球性正色素性貧血となります。汎血球減少が特徴的です。
b 鉄欠乏性貧血:小球性低色素性貧血となります。血清鉄の低下、TIBC上昇がみられます。特に、フェリチンの低下は重要所見です。血小板数は正常です。
c 再生不良性貧血:汎血球減少が特徴的です。
d 自己免疫性溶血性貧血:これのみでは、血小板数の低下はきたしません。
e 白血病:骨髄に異形細胞がみられます。
f 血友病:APTTが延長します。血小板数は正常です。
g 遺伝性球状赤血球症:遺伝性に赤血球が球状化しており、脾臓で破壊されて溶血をきたします。血小板数は正常です。
h サラセミア:ヘモグロビンを構成するグロビン遺伝子の異常により貧血をきたします(脾臓での赤血球の破壊)。血小板数は正常です。
i von Willebrand病:APTTと出血時間が延長します(PTは正常)。血小板数は正常です。
j 特発性血小板減少性紫斑病:血小板数の低下が特徴的です。
k 消化管出血:血小板数は正常です。
l 子宮筋腫:鉄欠乏性貧血の原因疾患の一つです。血小板数は正常です。
m 妊娠:通常、血小板数は正常です。



(解説)
特発性血小板減少性紫斑病(Idiopathic Thrombocytopenic Purpura:ITP)
・ 血小板に対する自己抗体が産生され,血小板の破壊(脾で)が亢進し,血小板寿命は短縮し出血傾向をきたします.
・ 小児科領域では、先行感染を伴った急性型が多いのに対して(しばしば自然治癒します)、内科領域では、先行感染のない慢性型が多いです(女性に多いです)。

【症状】
点状出血。粘膜出血。

【検査&診断】
・    PT&APTTは正常。
・    血小板数の低下。
・    他血液疾患の除外(除外診断)。特に,MDSは確実に否定。
・    骨髄巨核球の増加(末梢での血小板破壊に対する反応)。

【治療】必ずしも早期診断&治療が当てはまりません。
1) 血小板数が数万以上ある症例では無治療で経過観察する。
2) 血小板数が2-3万以下で出血があれば、副腎皮質ステロイドがfirst choice。
3) 無効例では,摘脾術を考慮。摘脾術に際しては、免疫グロブリン大量療法。
4) 近年のfirst choice:ピロリ菌の除菌療法。
5) 血小板輸血は,できるだけ避けたいが、緊急治療。
6) 新薬:トロンボポエチン受容体作動薬(エルトロンボパグ、ロミプロスチム)




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血液凝固検査入門(図解シリーズ)
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:37 | 医師国家試験・専門医試験対策

2016年5月23日

血友病Aと血液凝固因子

CBTの再現と解説です。試験を受けた学生さんの記憶による再生のため、正確ではない部分があるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いいたします。

血友病Aの治療で用いられるのはどれか.

a 第V因子
b 第VII因子
c 第VIII因子
d 第IX因子
e 第X因子



(ポイント)

血友病Aは、先天性に第VIII因子が欠乏した出血性疾患です。

止血治療は、欠乏した第VIIIを補充します。
具体的には、第VIII因子濃縮製剤(第VIII因子製剤)を使用します。


(選択肢)

a 第V因子は、第X因子の補酵素的な役割を果たします。

b 第VII因子は、外因系凝固活性化機序の最初のステップで役割を果たします。
ビタミンK依存性凝固因子(半減期の短い順に、第VII、IX、X、II因子)のなかで、最も半減期が短いために、ビタミンK欠乏症では、最初に低下します。
そのために、ビタミンK欠乏症では、APTTよりもPTの延長の方がはるかに目立ちやすいです。

c 第VIII因子は、第IX因子の補酵素的な役割を果たします。第VIII因子が先天性に欠損した疾患が、血友病Aです。

d 第IX因子が先天性に欠損した疾患が、血友病Bです。

e 第X因子が低下しますと、PTもAPTTも延長します。



(正答) c



(解説)

<血友病治療の問題点>
1.    インヒビターの発生:血友病の輸注療法中に出現する同種抗体です。この出現で,輸注療法の効果が極端に減弱します。抗体の力価はベセスダ単位で表現されます。

(対処法)バイパス製剤(遺伝子組換え活性型第VII因子製剤、活性型プロトロンビン複合体製剤など)による止血を行います。

2.    歴史的には、HIVやHCV感染症が問題になりました。現在の製剤は安全ですが、過去には薬害エイズと呼ばれた悲しい過去があったことは忘れないようにしたいです。


(参考)
・ 先天性血友病A患者にとっては、第VIII因子は未知の蛋白であるため、第VIII因子製剤による治療に伴ってインヒビター「同種抗体」が出現することがあります。

・ これとは別に、血友病Aではなくて第VIII 因子に対するインヒビターが後天性に出現する疾患が知られている。後天性血友病A(国試既出)と言います。この場合のインヒビターは「自己抗体」です。先天性血友病では間接内出血が多いですが、後天性血友病では何故か間接内出血はほとんどなく、筋肉内出血や皮下出血がみられます。
 


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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:26 | 医師国家試験・専門医試験対策

2016年5月22日

出血時間延長と凝固因子・vWF

CBTの再現と解説です。試験を受けた学生さんの記憶による再生のため、正確ではない部分があるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いいたします。

出血時間の延長に関わるのはどれか.

a vWF
b 第X因子
c 第IX因子
d 第VIII因子
e 第VII因子


(ポイント)

出血時間が延長するのは、3つの場合のみです。

1)血小板数の低下
2)血小板機能の低下
3)血管壁の脆弱性の存在


(選択肢)

a von Willebrand因子(VWF)活性が低下しますと、血小板粘着障害を生じ(血小板機能低下をきたし)、出血時間は延長します。

b 第X因子活性が低下しても出血時間は正常です。PT、APTTともに延長します。

c 第IX因子活性が低下しても出血時間は正常です。APTTは延長しますが、PTは正常です。

d 第VIII因子活性が低下しても出血時間は正常です。APTTは延長しますが、PTは正常です。

e 第VII因子活性が低下しても出血時間は正常です。PTは延長しますが、APTTは正常です。


(正答)
a


(解説)

出血時間(Bleeding time)の延長をきたす疾患・病態

(1)血小板数の低下:種々の血液疾患、肝硬変など。
(2)血小板機能の低下:血小板無力症、Bernard-Soulier症候群、尿毒症、von Willebrand病、アスピリンなどのNSAID内服、抗血小板薬内服など。
(3)血管壁の脆弱性:これに該当する疾患はあまりありません。  

(注意)

・    血小板数低下では出血時間は当然延長しているために、敢えて出血時間を行う意義は乏しいです。
・    出血時間は、血小板機能低下をチェックするためのスクリーニング検査としての意義が大きいです。
・    血友病A、血友病Bは、出血性疾患ですが、血小板機能には問題がないために、出血時間は正常です。
・    ワルファリンの過剰投与や、ビタミンK欠乏症も、出血性疾患ですが、出血時間は正常です。
 


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2016年5月21日

出血時間が延長しない疾患・病態

CBTの再現と解説です。試験を受けた学生さんの記憶による再生のため、正確ではない部分があるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いいたします。

出血時間が延長しないのはどれか.

a 血友病
b von Willebrand病
c 特発性血小板減少性紫斑病
d 血小板無力症
e 溶血性尿毒症症候群


(ポイント)
出血時間が延長するのは、以下の3つの場合のみです。

1)血小板数の低下
2)血小板機能の低下
3)血管壁の脆弱性の存在


特に、2)についての臨床的な意義が大きいです。


(選択肢)

a 血友病A&Bでは、それぞれ血液凝固第VIII因子&IX因子が先天性に欠乏して、間接内出血や筋肉内出血をきたします。前記の3条件はみたさず、出血時間は正常です。APTTは延長します(PTは正常)。

b von Willebrand病(VWD)は、先天性にvon Willebrand因子(VWF)が欠乏して鼻出血などの粘膜出血をきたします。VWFは、血小板粘着に重要な役割を果たしています。前記の2)を満たすために、出血時間は延長します。なお、VWFは第VIII因子のキャリアー蛋白でもあり、VWDでは第VIII因子も低下してAPTTは延長します(PTは正常)。

c 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)では血小板数が低下するために、前記の1)を満たすために、出血時間は延長します。

d 血小板無力症では、血小板膜糖蛋白であるGPIIb/IIIaが欠損して、血小板凝集障害をきたします。前記の2)を満たすために、出血時間は延長します。

e 溶血性尿毒症症候群では、血小板数が低下します。前記の1)を満たすために、出血時間は延長します。


(正答)
a


(解説)

疾患 血友病A or B von Willebrand病
遺伝形式 伴性劣性 常染色体性優性が最多
欠損因子 第VIII or IX因子 von Willebrand因子
欠損機能 内因系凝固機序 血小板粘着
性別 男性のみ 男女とも
出血部位 関節内、筋肉内 粘膜出血(鼻出血など)
出血時間 正常 延長
PT 正常 正常
APTT 延長 延長
第VIII因子 血友病Aでは低下 低下
IX因子 血友病 Bでは低下 正常
VWF活性 正常 低下
治療 A:第VIII因子濃縮製剤
B:第IX因子濃縮製剤
VWF混入の血漿由来第VIII因子濃縮製剤
DDAVP(軽症例で)

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2016年5月20日

凝固因子のカルボキシル化/ビタミン

CBTの再現と解説です。試験を受けた学生さんの記憶による再生のため、正確ではない部分があるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いいたします。

凝固因子の翻訳後カルボキシル化に関与するのはどれか.


a ビタミンA
b ビタミンC
c ビタミンD
d ビタミンE
e ビタミンK


(ポイント)
ビタミンK依存性凝固因子(第VII・IX・X・II因子)は、肝での生合成の最終段階で、ビタミンKの存在下で分子中のグルタミン酸のγ-カルボキシル化を生じ、このことにより凝固因子活性を有するようになります。

(選択肢)
a, b, c, d:ビタミンA・C・D・Eは、凝固因子のカルボキシル化とは無関係です。
○e:ビタミンKは、凝固因子のカルボキシル化に関与しています。


(正答)e

(解説)
ビタミンKのKの由来は、オランダ語のKoagulation(英語ではCoagulation)の頭文字に由来しています。

文字通り凝固因子のためのビタミンです。

また脂溶性ビタミンであり、その吸収には胆汁の存在を必要とします(閉塞性黄疸ではビタミンK欠乏症になりやすいです)。


ビタミンK依存性凝固因子として、半減期の短い順番に第VII因子、第IX因子、第X因子、第II因子(プロトロンビン)の4つの凝固因子が知られています。

これらの凝固因子は肝での生合成の最終段階で、ビタミンKの存在下で分子中のグルタミン酸のγ-カルボキシル化を生じ、このことによりカルシウム結合能を獲得し、血小板のリン脂質と結合できるようになります。

ワルファリン(ビタミンK拮抗薬)投与下やビタミンK欠乏状態では、グルタミン酸のγ-カルボキシル化が障害されて、PIVKA(protein induced by vitamin K absence)が出現します。

PIVKAはカルシウム結合が障害されており、凝固活性を有さず出血傾向をきたします。

ただし、適切なモニタリングの下にワルファリンによって適度なビタミンK欠乏状態にすれば、あまり出血の副作用をきたすことなく血栓症の発症を抑制することが可能です。


<ビタミンK依存性蛋白>

1)    凝固因子:第VII・IX・X・II因子
2)    凝固阻止因子:プロテインC、プロテインS(国試既出)
3)    骨関連蛋白:オステオカルシン(ワルファリンの催奇性と関連)

<ビタミンK欠乏症になりやすい病態>

1)    食事摂取量の低下:ビタミンKの摂取も低下するため。
2)    閉塞性黄疸:脂溶性ビタミンであるビタミンKは、胆汁がない状況では吸収されにくいため。
3)    抗生剤の使用:ビタミンKの産生部位である腸内細菌を死滅させてしまうため。

 

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2016年5月19日

敗血症治療セミナー in 金沢の御案内

プログラム

 

敗血症治療セミナー in 金沢 の御案内

日時:平成2863日(金)1800
場所:金沢大学附属病院 外来診療棟 4階 『CPDセンター』

《 製品紹介 》 18001815

『リコモジュリン点滴静注用12800』 旭化成ファーマ株式会社 

《 一般演題 》 18151830

座長:石川県立中央病院 救命救急科 医長 蜂谷 聡明 先生
『当院における敗血症性DICにリコモジュリンを使用した1例の検討』

金沢大学附属病院 集中治療部 余川 順一郎 先生

《 特別講演 》 18301930
座長:金沢大学医薬保健研究域医学系 麻酔・集中治療医学
教授 谷口 巧 先生
敗血症性DICの考え方と診断・治療 』
北海道大学大学院医学研究科 侵襲制御医学講座
救急医学分野 教授 丸藤 哲 先生


 

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:30 | 研究会・セミナー案内

2016年5月7日

北陸ヘモフィリア懇話会の御案内

懇話会




第9北陸ヘモフィリア懇話会の御案内

日時:2016年5月7日(土)  15時〜17時15分
場所:金沢都ホテル 5階 「兼六の間」

研修医、学生の皆さんのご参加を歓迎しています!

 

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:20 | 研究会・セミナー案内

2016年5月3日

B7-DC/PD-L2発見とB7-DC-Fc免疫チェックポイント阻害剤開発の経緯



金沢大学第三内科(血液・呼吸器内科)OBの土屋先生から貴重な寄稿をいただきました。 医局員にとっても、良い刺激になるのではないかと思います。

「B7-DC/PD-L2の発見とB7-DC-Fc免疫チェックポイント阻害剤開発の経緯」

土屋晴生(昭和62年入局)

はじめに

金沢聖霊総合病院の土屋です。

もし覚えていてくださる方がいたら大変光栄ですが、今回お話させていただくB7-DC/PD-L2については、2002年、私が帰国した直後に中尾先生から機会をいただき、その発見と経緯を一度医局で報告させていただきました。それは、免疫チェックポイント阻害剤が市場に出現するよりも、遥か以前の話です。当然、本庶先生やPardoll先生が日本のテレビでそれを紹介したのも、(ご覧になった方もいらっしゃると思いますが)、私の発見よりもだいぶ後という事になります。

ともあれ、私が免疫の仕事を始めたのは、もちろん3内に入ったからですが、それは当時免疫グループの中心だった、森先生、塩原先生、末永先生たちに惹かれての事でした。その森先生が2015年、悲しくも他界され、本年(2016)末永先生や上田先生を中心に森先生を偲ぶ会が開かれました。その会で、森先生と懇意だった方々と久しぶりにお会いし、私がB7-DC/PD-L2の仕事に携わっていたことをお話したところ、原田先生、織本先生たちから同門の方々にもぜひお知らせしてはどうかという話になりました。そして、織本先生が朝倉先生に連絡を取り付けてくださり、今回こうして皆さまに報告する運びとなった次第です。それでは、僭越ではありますがその経緯を記したいと思います。

経緯

1997年 The Johns Hopkins Uiversityに留学。腫瘍免疫が専門のPardoll先生の研究室。

1998年 cDNA subtractionという方法を用い、樹状細胞に特異的遺伝子のスクリーニングを行いました。樹状細胞の中に免疫療法に使えるような分子が発現しているに違いないので、それを調べることが目的でした。いくつか報告されていない遺伝子がありました。その中にB7-DC/PD-L2がありました。

1999年 遺伝子配列のデータベースであるGenBankに当初はBtdcと命名して登録しました。これはbutyrophilinというmilk proteinに似ていたからです。butyrophilinはbroad B7 familyであることが報告されていました。後日ここに登録した事が重要な意味を持つ事となりました。 AF142780 1755 bp mRNA linear ROD 01-JUN-1999Mus musculus butyrophilin-like protein (Btdc) mRNA, complete cds.

年末にMayo clinicのLieping Chen先生達がB7-H1を発見し報告しました。 我々は、BtdcとB-H1が非常にhomologyが高いことに気づきました。 B7-H1, a third member of the B7 family, co-stimulates T-cell proliferation and interleukin-10 secretion. Nat Med. 1999 Dec;5(12):1365-9.

2001年 Harvard Medical Schoolのグループが以前B7-H1として報告されていた分子がPD-1のligandであることを発見し、PD-L1と命名しNature Immunologyに投稿しました。同時に我々がGenbankに登録したBtdcをhomology searchで見つけ、これもやはりPD-1のligandであることを発見しPD-L2と命名されました。下記論文には、我々がGenbankに登録したBtdcを引用したことが記載されています。

PD-L2 is a second ligand for PD-1 and inhibits T cell activation. Nat Immunol. 2001 Mar;2(3):261-8.

同時に我々も知らずに同誌に投稿していたのですが、rejectされ、遅れてRalph Steinman先生(故人)(のちにノーベル賞受賞)に頼んでJournal of Experimental Medicineに投稿しました。論文に発表する際にBtdcをB7-DCと改名しました。

B7-DC, a new dendritic cell molecule with potent costimulatory properties for T cells. J Exp Med. 2001 Apr 2;193(7):839-46.

2002年 帰国。

2003年 最初のB7-DC/PD-L2ノックアウトマウスの論文が発表されました。

Cooperative B7-1/2 (CD80/CD86) and B7-DCcostimulation of CD4+ T cells independent of the PD-1 receptor. J Exp Med. 2003Jul 7;198(1):31-8.

2004年 B7-H1/PD-L1の発見者Lieping Chen先生がMayo clinicからThe Johns Hopkins Universityに移籍されました。

2005年 2報目のB7-DC/PD-L2ノックアウトマウスの論文が発表されました。 In vivo costimulatory role of B7-DC in tuning T helper cell 1 and cytotoxic T lymphocyte responses. J Exp Med. 2005 May16;201(10):1531-41.

2007年 Pardoll先生とChen先生達によりThe Johns Hopkins Universityのventure企業Amplimmune社が設立されました。この会社はB7関連分子を用いた免疫療法の開発を行っていました。

2010年 Amplimmune社とグラクソ・スミスクライン社がAMP-224で提携発表。AMP-224とはB7-DC-Fc融合タンパクのことです。

2012年 Pardoll先生の奥様のTopalian先生が、抗PD-1抗体の臨床治験結果を発表。

Safety, activity, and immune correlates of anti-PD-1 antibody in cancer. N Engl J Med. 2012 Jun 28;366(26):2443-54.

2013年 Amplimmune社はアストラゼネカ社に買収されました。

2016年 現在、AMP-224はphase1の臨床治験中。



最後に

以上、たくさんの出来事の中から、エポックメーキングな事のみを、公開された情報を整理する形でまとめてみました。

PD-1は日本で開発された経緯もあり、皆さまのよく知るところだと思いますが、その研究は京都大学が中心になって行われました。そして、京都大学の本庶先生の元で、織本先生の金沢大学の同級生のかたが、PD-1のcloningに深くかかわっていらっしゃったということです。このようにPD-1とPD-L2の発見には、金沢大学出身者が大きな貢献してきました。さらにB7-H1は、Lieping Chen先生(Mayo clinic)の研究室で日本人の方が発見に携わっていたそうですし、Pardoll先生(The Johns Hopkins University)の研究室には千葉大学や山口大学の先生たちも留学されていて、上記論文の共著者となっています。このように、この仕事は日本人の貢献に負うところが大きいと言えるでしょう。

こうして発見されたB7-H1,B7-DCですが、これらは補助刺激因子B7のfamilyとして、免疫活性化分子として報告されました。一方Harvard Medical Schoolで、これらがPD-1のリガンドであること、更に免疫抑制分子として働くことが報告されました。最終的には免疫応答を制御する他の分子とともに、補助刺激因子ではなく, 免疫チェックポイント分子と呼ばれるようになった訳です。

B7-DC/PD-L2は、発見からほどなくマウスを使った基礎研究の時代が終わり、ベンチャー企業の設立、大手製薬会社との提携、そして現在行われている臨床治験へと段階を踏んで進んでいます。ここに至るには20年に近い歳月を要した訳ですが、この長い時間を私は、最初はアメリカでの基礎研究、その後は金沢で内科医として働きつつ過ごしました。 最近になり、こうした経緯を親しい方々にお話しすると、どうしてアメリカから帰ってきたのか、どうして日本で研究を継続しなかったのか、と質問される事がよくあります。実際、Pardoll先生は是非アメリカに残ってくれとおっしゃってくださいましたし、帰国して何か別の研究を続けることもできたかもしれません。ただ私は思うところあってその道を選びませんでした。

AMP-224はまだ臨床治験中ですし、今後実際に薬として市場に登場してくるかは未知の話です。臨床治験が終わるだけでも、この先何年も要するでしょう。こうした研究が、今後全ての人々の幸せにつながってほしいと切に願っています。

ありがとうございました。

土屋晴生


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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:25 | 血液内科

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