金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2018年05月10日

血便、焼肉、血小板低下(医師国家試験)

医師国家試験の再現問題です。


10歳の女児。血便を主訴に父親と来院した。

6日前に家族と焼肉を食べに行った。
3日前から水様下痢が出現し、昨日からは血便になり激しい腹痛を自覚するようになったため受診した。

身長135cm、体重32kg。体温37.2℃ 。脈拍84/分、整。血圧120/70mmHg。

血液所見:
赤血球250万、:Hb8.2g/dL、Ht25%、自血球9,000(得状核好中球10%、分葉核好中球70%、リンパ球20%)、血小板8.0万。

末柏血塗休May―Giemsa染色標本を別に示す(省略:砕赤血球の存在)。


この患者が合併しやすいのはどれか。


a 急性腎障害
b 急性肝不全
c 潰瘍性大腸炎
d 自己免疫性溶血性貧血
e 播種性血管内凝固 (DIC)



(解説)
・「小児」、「焼肉を食した」、「血便」はポイントになっています。

・貧血、血小板数低下、末梢血液像での破砕赤血球の存在は、血栓性微小血管障害症(TMA)を想起します。

・TMAには、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、溶血性尿毒症症候群(HUS)、HELLP症候群(妊娠合併症)、造血幹細胞移植後などがあり、これらの疾患が鑑別に上がります。

・近年は、非定型溶血性尿毒症症候群(aHUS)も話題になっていますが、まだ医師国家試験レベルではないでしょう。

・小児、焼肉、血便、血液検査(赤血球破砕像、貧血、血小板数低下)から、溶血性尿毒症症候群(HUS)と診断されます。


a  急性腎障害は、HUSの特徴の一つです。

b  急性肝不全は、HELLP症候群で見られます。

c  潰瘍性大腸炎は、本症例では血便以外には一致した所見はありません。ただし、潰瘍性大腸炎では、深部静脈血栓症を合併しやすいことは知っておきたいです。

d  自己免疫性溶血性貧血を示唆する所見はありません。

e  DICの診断のためには、血小板数以外に、FDP(またはD-ダイマー)、フィブリノゲン、プロトロンビン時間などの情報が必須です。


(正答) a



(備考)

血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)


<本態>

微小血管内皮障害および血小板活性化により微小な血小板血栓が多発し、血小板数低下に伴う出血傾向とともに、動揺する精神症状をきたします。

<発症機序>
von Willebrand因)切断酵素(ADAMTS13)に対する自己抗体が出現し、この酵素活性が著減。その結果、unusually large vWFが出現し血小板凝集が進行。

<五主徴>
1.血小板数減少
2.溶血性貧血(赤血球破砕像)
3.動揺する精神症状
4.腎障害
5.発熱

<検査>

・血小板数減少、赤血球破砕像(+)
・溶血性貧血の所見:間接ビリルビンの上昇、LDHの上昇、ハプトグロビンの低下。

<治療>
血漿交換、新鮮凍結血漿輸注、副腎皮質ステロイド。
濃厚血小板は禁忌。




溶血性尿毒症症候群(HUS)

<本態>

(TTPとの相違点)腎不全の合併。小児に多いです。

<発症機序>
ADAMTS13に対する自己抗体の出現はありません。
病原性大腸菌の産生するVero毒素が原因となることが多いです。

<三主徴>
1. 血小板数減少
2. 溶血性貧血(赤血球破砕像)
3. 急性腎不全。

<検査>

TTPと同じ + 腎不全の所見。

<治療>
腎不全の治療、血漿交換など。

 

<リンク>

血液凝固検査入門(図解シリーズ)
播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:43| 医師国家試験・専門医試験対策