金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2018年05月27日

急性前骨髄球性白血病のDIC:医師国家試験

医師国家試験再現問題と解説です。

50歳の女性.
全身の皮下出血と鼻出血とを主訴に来院した.
特に誘引なく右肩の紫斑が出現した.
その後大腿や下腿にも紫斑が出現し,今朝から鼻出血が止まらないため受診した.
5年前に乳癌に対して手術と抗癌化学療法とを受けた.

血液所見
赤血球278万,Hb 8.8g/dL,Ht 25%,白血球700,血小板5.1万,
PT-INR 1.2(基準0.9〜1.1),APTT 30.6秒(基準対照32.2),血漿フィブリノゲン74mg/dL(基準200〜400),血清FDP 110μg/mL(基準10以下),Dダイマー9.6μg/mL(基準1.0以下).

骨髄血塗抹May-Giemsa染色標本(省略)を別に示す(アズール顆粒、アウエル小体、Faggotを有する異常細胞(芽球)が多数).
 

この患者に対する治療薬として適切なのはどれか.


a 抗エストロゲン薬
b 全トランス型レチノイン酸
c トラネキサム酸
d ドセタキセル
c ヘパリン


(解説)

全身性の出血症状が見られています。
特徴的な凝固異常所見と骨髄像があります。

汎血球減少症の存在から血液疾患の存在が疑われます。
骨髄像では特徴的な芽球が守られており、急性前骨髄球性白血病(acute promyelocytic leukemia:APL)(FAB分類:M3)と診断されます。

血小板数は5.1万と低値ですが、それだけでは著明な出血症状をきたすほどではありません。
出血症状をきたしている主因は、播種性血管内凝固症候群(DIC)(線溶亢進型DIC)の合併です。


a 抗エストロゲン薬は乳癌の治療に用いられますが、本例での乳癌の既往は今回のエピソードとは無関係です、
b 全トランス型レチノイン酸(all-trans retinoic acid:ATRA)は、APLの分化誘導治療薬として用いられ明日。
c DICに対してトラネキサム酸を単独で投与しますと、全身性の血栓症を誘発することがあります。特に、APLに対してATRAを投与している場合は、APLの線溶活性化が抑制されるために、トラネキサム酸は絶対禁忌です(死亡例の報告があります)。
d ドセタキセルは、乳癌、非小細胞肺癌、胃癌、卵巣癌などに用いられます。
e APLに合併したDICに対して昔はヘパリンが投与された時代もありましたたが、かえって出血を助長することもあり、現在は使用されることはあまりないです。APLに対する ATRA療法そのものに抗DIC効果が期待されます。


(正解) b




播種性血管内凝固症候群(DIC)

<概念>
1. 基礎疾患の存在
・三大疾患:急性白血病、固形癌、敗血症
・産科合併症:常位胎盤早期剥離,羊水塞栓
・大動脈瘤、膠原病(血管炎を伴う),外傷,熱傷 など。
2. 全身性&持続性の血管内における著明な凝固活性化状態(微小血栓の多発)
3. 二次線溶:ただし,その程度は症例により様々。
4. 消費性凝固障害(consumption coagulopathy):血小板や凝固因子の低下。
5. 出血症状,臓器症状 (DICの2大症状)


<診断のための検査所見>

1. 血小板数の低下:ただし造血器悪性腫瘍のようにDICとは無関係に血小板数が低下する場合にはDIC診断には用いません。
2. 血中FDPおよびD-ダイマーの上昇
3. 血中フィブリノゲンの低下
4. プロトロンビン時間(PT)の延長:進行例ではAPTTの延長もみられることがありますが、本症例のように延長しないことも多いです。

<病態把握のための検査所見>

1. アンチトロンビン (AT)の低下
2. プラスミノゲンの低下、α2プラスミンインヒビター(α2PI)の低下。
3. トロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT)の上昇
4. プラスミン-α2PI複合体(PIC) の上昇



<DICの病型分類>
凝固活性化と線溶活性化は平行して進行してますが,両者のバランスは基礎疾患により相当異なります。

線溶抑制型DIC
・敗血症など。
・線溶活性化が軽度のため,微小血栓が溶解されにくいです。
・出血症状<臓器症状
・TATは上昇しますが,PICの上昇は軽度です。
・線溶阻止因子であるPAI-1 は,著増します。

線溶亢進型DIC
・急性前骨髄球性白血病(APL)、大動脈瘤、前立腺癌など。
・線溶活性化が高度のため,微小血栓が溶解されやすい。
・出血症状>臓器症状
・TAT,PICともに上昇。
・線溶阻止因子であるPAI-1は,正常。もう一つの線溶阻止因子α2PI は著減。


(ポイント)

線溶亢進型DICでは、本症例のように、フィブリノゲン著減、FDP著増が特徴です。
D-ダイマーも上昇しますが、FDPほどの上昇はないために、FDPとD-ダイマーの間に乖離現象が見られます。


<リンク>

血液凝固検査入門(図解シリーズ)
播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:14| 医師国家試験・専門医試験対策