金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2009年08月10日

Dダイマー & F1+2と悪性腫瘍例の静脈血栓塞栓症予知

今回は、以下の雑誌に掲載された論文を紹介させていただきたいと思います。

Ay C, et al: 血中DダイマーおよびF1+2は、担癌患者における静脈血栓塞栓症の発症を予知する
J Clin Oncol. 2009 Jul 27. [Epub ahead of print]

この雑誌は、インパクトファクターが17を超える超一流雑誌です。

論文の内容もさることながら、この雑誌(JCO)に、Dダイマー、F1+2と言った凝血学的検査および静脈血栓塞栓症との関連を論じた報告が掲載されたところに大きな意味があるかもしれません。


<論文内容の概略>
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静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE)
は、悪性腫瘍患者における重要な合併症の一つです。

臨床検査所見は、悪性腫瘍患者におけるVTE発症のリスクを評価できる可能性があります。

著者らは、悪性腫瘍関連VTEの発症を予知するために、血中Dダイマー及びプロトロンビンフラグメント1+2(prothrombin fragment 1+2:F1+2)の測定を行っています。


対象症例は、新規に診断された悪性腫瘍患者、または、最近化学療法、放射線療法、外科手術の行われていなかった再燃悪性腫瘍患者の計821例です。中央値501日間の経過観察が行われました。

疾患の内訳は、乳癌132例、肺癌119例、胃癌35例、下部消化管106例、膵癌46例、腎癌22例、前立腺癌101例、神経膠腫102例、悪性リンパ腫94例、多発性骨髄腫17例、その他47例です。

エンドポイントは、他覚的に確認できた症候性または致命的VTEです。


検討の結果、VTEは62例(7.6%)で発症しました

DダイマーおよびF1+2のカットオフ値は、全検討症例の75パーセンタイルで設定しています。

Dダイマー高値、F1+2高値、年齢、性別、手術歴、化学療法歴、放射線療法歴を含んだ項目で、多変量解析を行ったところ、VTE発症に関して有意であったのが、Dダイマー高値とF1+2高値でした
Dダイマー高値症例のVTE発症のハザード比(HR)1.8(p=0.048)、F1+2高値症例のHR 2.0(p=0.015)でした。

6ヶ月後にいたるまでのVTE累積発症は、Dダイマー、F1+2両者ともに高値であった群が、15.2%と最も高率でした(DダイマーもF1+2も低値であった場合には5.0%)。ただし、Dダイマー、F1+2のいずれか一方のみの高値例では、VTE発症リスク上昇はありませんでした。

以上、Dダイマー高値とF1+2高値は、独立した因子として悪性腫瘍患者におけるVTE発症を予知するものと考えられました。
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この論文の注目点は以下ではないかと思っています。

1)悪性腫瘍患者の計821例と多数例で、VTE発症と凝血学的マーカーの関連を検討したこと。

2)Dダイマーのみならず、DダイマーとF1+2の同時測定の意義を見いだしたこと。


なお、なぜTATやSF(FMC)ではなく、F1+2で検討したのかにつきましては、管理人も不思議に思っています。TATやSF(FMC)では、また違った成績になったかも知れません。


 

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 05:05| 血栓性疾患 | コメント(0)

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