金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2008年10月04日

DIC病態(急性白血病などの造血器悪性腫瘍):治療法改善へ

【はじめに】
DICは、基礎疾患の存在下に持続性の著しい凝固活性化をきたし、全身の主として細小血管内に微小血栓が多発する重篤な病態です。そういう意味では、DICは究極の血栓症(血栓症の王様)とも言えます。
DICの基礎疾患としては多くの疾患が知られていますが、急性白血病、固形癌、敗血症は三大基礎疾患として知られています。


【造血器悪性腫瘍に合併したDIC病態:敗血症と比較して】
DICの発症機序や病態は基礎疾患によって相当に異なります(DICの病型分類)。

敗血症においては、LPSやTNF、IL-1などの炎症性サイトカインの作用により、単球/マクロファージや血管内皮から大量のTFが産生され、著しい凝固活性化を生じます。また、血管内皮上に存在する抗凝固性蛋白であるトロンボモジュリン(TM)の発現が抑制されることで、凝固活性化はさらに拍車がかかることになります。
加えて、血管内皮から産生される線溶阻止因子であるプラスミノゲンアクチベータインヒビター(PAI)が過剰に産生されるため生じた血栓は溶解されにくい病態です(いわゆる線溶抑制型DICの病態)。
臨床的には、臓器症状は重症化しやすいですが、出血症状は比較的見られにくいのが特徴です。

一方、造血器悪性腫瘍(急性白血病など)や固形癌などの悪性腫瘍においては、腫瘍細胞中のTFにより外因系凝固が活性化されることが、DIC発症の原因と考えられています。血管内皮や炎症の関与がほとんどない点において、より直接的な凝固活性化の病態となっています。これらの悪性腫瘍、特に造血器悪性腫瘍に対して、化学療法を行いますと腫瘍細胞中のTFが一気に血中に流入するためにDICは一時的にかえって悪化する現象が良く知られています。
ただし、このことを理由に基礎疾患の治療を躊躇してはいけません。


【造血器悪性腫瘍に合併したDICのマーカーの変動】
急性白血病(特に、APL)などの造血器悪性腫瘍に合併したDICにおいては、凝固活性化のみならず線溶活性化も著しいために、凝固活性化マーカーであるトロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT)のみならず、線溶活性化マーカーであるプラスミン-α2プラスミンインヒビター(PIC)も著増するのが特徴です(典型例では、PIC>10μg/mL)(いわゆる線溶亢進型DICの病態)。
線溶阻止因子PAIは上昇することはなく、α2プラスミンインヒビター(α2 PI)は消費性に著減します(典型例では、α2 PI<50%)。著しい線溶活性化を反映してFDPDダイマーは明らかに上昇しますが、フィブリノゲン分解も進行しますと、FDP/Dダイマー比は上昇します(Dダイマー/FDP比は低下します)。


【造血器悪性腫瘍に合併したDICの臨床症状】
造血器悪性腫瘍に合併したDICにおいては、臨床的には出血がしばしば高度ですが、臓器症状はほとんどみられないのが特徴です。たとえば脳出血、吐血・下血、肺出血などの致命的な出血をきたすような症例においても、肝腎障害などの臓器障害は全くみられないことがほとんどです(敗血症に合併したDICと極めて対照的です)。

その理由としましては、線溶活性化が高度であるために多発した微小血栓が速やかに溶解して臓器における微小循環障害をきたさないためと考えられています。ただし、この高度な線溶活性化は止血のための血栓(止血血栓)までも溶解してしまうために、しばしば致命的な出血をきたしてしまいます。

 造血器悪性腫瘍に合併したDICの治療の主眼は、致命的な出血症状が出現しないようにコントロールすることになります。


【化学療法のみでも良い?】

造血器悪性腫瘍に合併したDICにおいては、化学療法が特効すればDICは速やかに消退しますが、このことを理由にDICの治療を行わなくて良いというのは間違った考えです。それは、たまたま致命的な出血を来さなかっただけなのです。知命的な出血である脳出血であっても、極論すれば1秒前までは症状はありません。脳出血を発症してしまってからDICの治療を行うのでは完全に後手に回ってしまいますし、こんな残念なことはありません。
DICの病態を正確に把握し、適切な治療を行うことが肝要です。


【補足:管理人の辛い経験】
管理人は、20数年前(まだDICの病型分類の概念がなかったころですが)、線溶亢進型DICで脳出血をきたした症例を何例か経験しています。当時は、それはヘパリンの使用量が少なかったからではないかと考察されていましたが、今の医学で考えますと大間違いでした。むしろ、ヘパリンを(しかも単独で)使いすぎていたので脳出血をきたしていたのです。
DIC治療を、今の医学レベルで当時行っていれば脳出血を起こすようなことはなかったでしょう。思い出しますと、とても残念な思いです。

 

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 07:00| DIC | コメント(0)

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