金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2009年04月18日

急性前骨髄球性白血病(APL)とDIC:ATRA、アネキシンII

 播種性血管内凝固症候群(DIC)<図解シリーズ>クリック

脳出血

急性前骨髄球性白血病(acute promyelocytic leukemia:APL)は、播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)を必発することで、良く知られています。線溶活性化が高度なタイプのDICを発症し、脳出血を含む全身性の出血をきたすことがあります。

管理人が医師になったころは、APLの患者様が入院されますと、出血症状のコントロールがつかず、翌日脳出血を発症されるということもありました(管理人が主治医として担当させていただいた患者さまも何人かおられ、思い出しますととても残念な思いです)。そういう意味では、昔はAPLは白血病の中でも、最も注意すべき病気でした。しかし、時代は変わって、今はAPLは、最も治療しやすい白血病になりました。

その理由は、ビタミンA誘導体であるATRA(all-trans retinoic acid)の登場です。ATRAは、APL細胞を分化誘導させて、APLを寛解へと導きます。


このATRAの素晴らしいところは、APL細胞を分化誘導させるのみでなく、APLに合併したDICをも一気にコントロールするところです。就寝前に、ATRAを内服していただきますと、翌朝には出血症状が軽減していることが多々あります。
さて、何故ATRAは、APLのDICに対してこんなに有効なのでしょうか?

この理由を書かせていただく前に、APLではなぜ線溶活性化が著明なDICを発症するのかを書かせていただきたいと思います。

 

APLでDIC(線溶活性化が強いタイプのDIC)を発症する理由

1)APL細胞には大量の組織因子(tissue factor:TF)(旧称:組織トロンボプラスチン)が発現しています。そのため、外因系凝固活性化が一気に進行します。

2)APL細胞には、アネキシンIIが過剰発現しています。アネキシンIIは、組織プラスミノゲンアクチベータ(tissue plasminogen activator:t-PA)と、プラスミノゲンに結合します。そうしますと、t-PAのプラスミノゲンに対する作用が飛躍的に高まります。そのため、著しい線溶活性化が進行します。このようにしてAPLでは、線溶活性化が著しいタイプのDICを発症します。

引用:N Engl J Med の論文があります。

アネキシンII

 


ところが大変興味あることに、ATRAを投与いたしますと、APL細胞のTFとアネキシンIIの発現が一気に抑制されます。まさに、凝固、線溶、両おさえ状態になります。ATRAはAPLの分化誘導のみならず、DICに対しても著効するのです。分化誘導に成功するには1〜2ヶ月必要だと思いますが、DICは極めて短い期間で効果を発揮します。


なお、ここで重大な注意事項があります。


APLに対してATRAを投与している時は、絶対にトラネキサム酸(トランサミン)を投与してはいけないということです。

APLに対してATRAを投与している時にトラネキサム酸を投与して、血栓症を誘発して死亡したという報告が多数あります。

APLに対してATRAを投与しますと、アネキシンIIの発現が抑制されて線溶活性化が抑制されるために、DICの性格が変貌するためと考えられます。

 

 

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<特集>播種性血管内凝固症候群(図説)

 

 

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 05:54| DIC | コメント(0)

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