金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2008年09月16日

播種性血管内凝固症候群(DIC)の病態、診断、治療(研修医/学生対応)

DIC病型分類

 

金沢大学 血液内科・呼吸器内科に併設したこのブログにも、少しずつGoogleやYAHOOによる検索で訪問いただく方が増えてきたようです。検索ワードの掛け合わせ方から、医学部学生さんや、研修医の皆さんのご訪問も多くなってきているように感じています。

今回は、播種性血管内凝固症候群 ( D I C )の記事を、医学部学生さんや、研修医の皆さん対応で簡明に書かせていただきたいと思います。

 

【関連記事】

<特集>播種性血管内凝固症候群(図説)クリック(シリーズ進行中!)

DIC病型分類に関する欧文論文:Classifying types of disseminated intravascular coagulation: clinical and animal models.  Journal of Intensive Care 2014, 2: 20.


1)播種性血管内凝固症候群 ( D I C )の語源
Disseminated:播種性(種をばらまくように)
I ntravascular:血管内(血管内に)
Coagulation:凝固(凝固活性化→微小血栓多発)

DICは「究極の血栓症」「血栓症の王様」とも言える。
DICに対して有効な薬剤は、深部静脈血栓症などの他の血栓症に対しても有効。

2)DICの概念
1. 基礎疾患の存在
2. 全身性持続性の極端な凝固活性化
3. 線溶活性化(その程度は種々)
4. 消費性凝固障害
5. 出血症状、臓器症状

3)DICの基礎疾患
三大疾患:敗血症,急性白血病、固形癌
産科合併症(常位胎盤早期剥離,羊水塞栓)、外傷、熱傷、膠原病(血管炎合併)、ショック、大動脈瘤、劇症肝炎、肝硬変、急性膵炎など。

4)DICの発症機序
● 急性白血病&固形癌:線溶亢進型線溶均衡型DIC(旧名称:線溶優位型〜中間型DIC
腫瘍細胞中の組織因子(tissue factor:TF)(旧称:組織トロンボプラスチン)が、外因系凝固機序を活性化する。
● 敗血症:線溶抑制型DIC(旧名称:凝固優位型DIC
単球からのTF産生。血管内皮からのTF産生、トロンボモジュリン発現低下(by LPS,サイトカイン)

5)DICの二大症状
1. 出血症状  
2. 臓器症状

6)DICではなぜ出血するか?
1)消費性凝固障害:血小板や凝固因子の低下。
2)線溶活性化:止血血栓の溶解。

7)DICではなぜ臓器障害をきたすか?
・微小血栓多発に伴う微小循環障害のため。
・しばしば多臓器不全(multiple organ failure:MOF)

8)DICの予後(旧厚生省研究班疫学調査)
平成4年度:4科で死亡率65.2%(内科68.1%・外科71.3%・小児科45.5%・産婦人科38.9%)
平成10年度:6科で死亡率56.0%(内科61.8%・外科61.5%・小児科42.3%・産婦人科46.4%・集中治療部46.4%・救急部42.9%)

9)DICの治療
1.基礎疾患の治療(最重要)
2.抗凝固療法
ヘパリン類:ダナパロイド(オルガラン)、低分子ヘパリン(フラグミン)、未分画ヘパリンから選択
アンチトロンビン濃縮製剤(アンスロビンPノイアートノンスロン
合成抗トロンビン薬:メシル酸ナファモスタット(フサン:FUT)、メシル酸ガベキサート(FOY
3.補充療法:濃厚血小板(血小板の補充)、新鮮凍結血漿(凝固因子の補充)
4.抗線溶療法;トラネキサム酸トランサミン)など:原則禁忌(線溶抑制型DICでは絶対禁忌)
理由:臓器障害を悪化

 



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ヘパリン類(フラグミン、クレキサン、オルガラン、アリクストラ)

ヘパリン類の種類と特徴(表)

低分子ヘパリン(フラグミン、クレキサン)

オルガラン(ダナパロイド )

 

投稿者:血液内科・呼吸器内科at 19:51| DIC | コメント(3)

◆この記事へのコメント:

こんにちは。
某大学病院で臨床検査技師をしているものです。TATについて調べています。
慢性DICの治療でリコモジュリンを使用している患者さんがいます。治療効果の指標としてTATの検査依頼を出すDrとFDPしか依頼しないDrがいます。先生のサイトを拝見していますとTATで効果の判定をするのがいいように思うのですが、TATでモニタリングするのとFDPでモニタリングするのとでは臨床側からみてどう違うのでしょうか?
ちなみに臨床へのデータ返信時間は検体到着からTAT30分、FDP20分といったところでしょうか。返信いただけると幸いです。

投稿者:あやりん: at 2010/01/20 16:07

あやりんさん、この度はご訪問いただきありがとうございます。

臨床へのデータ返信時間は検体到着からTAT30分、FDP20分という記載内容から、高い診療レベルを感じます。素晴らしいですね。

さて、DICの治療効果を何で判断するかという、大変重要なご質問をいただきました。本質をつくご質問ですが、おそらく専門家の間でも意見が分かれるのではないかと思います。

ということで、管理人の個人的な見解を書かせていただきたいと思います。DICの本態は、全身性持続性の著しい「凝固活性化」です。凝固活性化のマーカーであるTATやSFで効果判定を行うのが最も適切ではないかと思っています。

管理人自身の経験でも、FDPやDダイマーのみで効果判定をして失敗しそうになったことがあります。

FDPやDダイマーは確かに重要なマーカーですし、実際、臨床の現場では治療効果の判定に用いられることがあると思います。しかし、FDPやDダイマーは血栓溶解を反映していますので(DICの本質というよりもDICの結果としてみられる所見ですので)、過度に重症視するのは注意が必要ではないかと思っています。

この度は、本サイトにご訪問いただきありがとうございました。
今後ともどうかよろしくお願いいたします。

投稿者:血液・呼吸器内科: at 2010/01/21 10:30

丁寧な回答ありがとうございました。今後業務に役立てたいと思います。また勉強のために訪問させていただきます。

投稿者:あやりん: at 2010/01/28 19:10

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