金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2009年02月06日

先天性血栓性素因の治療:アンチトロンビン・プロテインC&S欠損症(6)


アンチトロンビン・プロテインC&S欠損症(5)
からの続きです。




 【先天性血栓性素因の治療】

先天性血栓性素因、具体的には先天性アンチトロンビン(Antithrombin:AT)、プロテインC(Protein C:PC)、プロテインS(Protein S:PS)欠損症の患者における血栓症の急性期および慢性期の内科的治療は、以下のような抗凝固療法が基本になります。


急性期
ヘパリン類:未分画ヘパリン、低分子ヘパリン(商品名:フラグミン)、ダナパロイド(商品名:オルガラン)いずれかの経静脈的投与。なお、分画ヘパリン、低分子ヘパリンは24時間持続点滴、オルガランは1日2回の静注になります(関連記事:ヘパリン類の種類と特徴ヘパリン類の表)。

慢性期
ワルファリン(商品名:ワーファリン)の内服。ワルファリンは、永続的に内服していただくことが多いです。


ヘパリン類からワルファリンに切り替えていく際に注意すべき点は、先天性プロテインC欠損症では、ワルファリン投与開始1〜2日後に皮膚壊死(電撃性紫斑病 purpura fulminans)をおこす可能性があることです。そうならないように、ヘパリン併用下にワルファリンを少量から治療域にまで増量していき、治療域で安定した後にヘパリンを中止することが大切です。

先天性アンチトロンビン欠損症に対する血栓症の治療、あるいは周産期や術後の血栓傾向に対しては、予防的にアンチトロンビン濃縮製剤を使用する場合があります(関連記事:先天性アンチトロンビン欠損症の治療)。

先天性プロテインC欠損症における静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE)、電撃性紫斑病に対しては、血漿由来活性化プロテインC(APC)製剤を抗凝固剤として使用することもできますが、驚くほど高価なことがネックになっています。

 

 

【シリーズ】先天性血栓性素因アンチトロンビン・プロテインC&S欠損症

1)病態 
2)疫学 
3)症状 
4)血液・遺伝子検査  ←遺伝子検査のご依頼はこちらからどうぞ。
5)診断 
6)治療

 

 

【関連記事】

先天性血栓性素因の診断

出血性素因の診断

血栓症と抗血栓療法のモニタリング

血栓性素因の血液検査(アンチトロンピン、プロテインC、抗リン脂質抗体他)

先天性アンチトロンビン欠損症の治療

 

 

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:25| 血栓性疾患 | コメント(2) | トラックバック(0)

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◆この記事へのコメント:

いつもこちらで勉強させていただいております、循環器内科医師です。
一つお聞きしたいのですがよろしいでしょうか。

 @仮に、心房細動などですでにワーファリン内服中の患者が、FDP,D-dimerがいつも高値で、プロテインC&S欠乏を疑ったとします。
 C&SはビタミンK依存性なのでワーファリン内服でC&Sの数値は低下すると思うのですが、ワーファリンを中止しない限り、C&S欠乏症の診断はできないのでしょうか?
 つまり、C&S欠乏症患者がワーファリン内服している場合は、内服してない患者と比べてC&S濃度が極低値になる、といったような形でC%S欠乏症の存在を推定するのは不可能でしょうか?

 AC&S欠乏症の
お忙しいところ大変申し訳ございませんが、ご教示いただけましたら幸甚です。

投稿者:kraftwerk: at 2010/08/13 16:47

Kraftwerkさん、いつもご訪問いただきありがとうございます。

心房細動でワルファリン内服中の患者さんが、FDP、D-dimerがいつも高値であった場合に、プロテインCまたはプロテインS欠乏症を疑うかどうかは別といたしまして、ワルファリン内服中でプロテインCまたはプロテインS欠乏症の有無をチェックしたい症例には少なからず遭遇すると思います。

ワルファリン内服中であれば、プロテインCまたはプロテインS欠乏症でなくても、PCまたはPSは低下しますので、診断しにくくなるのはご指摘の通りです。

ワルファリンを中断できる場合には中断して測定することになると思いますが、ほとんどの場合は中断できないと思います。
そのような場合には、まず、PCまたはPSの低下程度で推測することが多いと思います。たとえば、PC50%、PS20%であれば、プロテインS欠乏症を疑いたくなります。

その上で、遺伝子検査で確定診断にもっていくことになると思います。

ただし、それ以前の問題として、PCやPSをチェックする前に、ワルファリンを導入するのは問題が大きいと思っています。
http://www.3nai.jp/weblog/entry/32351.html

以上、分かる範囲内で書かせていただきましたが、回答になっていますでしょうか。

投稿者:血液・呼吸器内科: at 2010/08/19 10:58

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