金沢大学・血液内科・呼吸器内科
※記事カテゴリからは過去の全記事をご覧いただけます。
<< 前のエントリトップページ次のエントリ >>
2013年07月20日

腹部/解離性大動脈瘤とDIC(4):ヘパリン類の治療

腹部/解離性大動脈瘤とDIC(3):ステントグラフト治療より続く。


腹部大動脈瘤・解離性大動脈瘤とDIC(4)ヘパリン類の治療

大動脈瘤・大動脈解離の治療

大動脈瘤に対する根本的治療(人工血管置換術、ステントグラフト内挿術)が行われれば、随伴する凝固線溶活性化もおおむね軽快しますが、術前より出血症状を認めるような
播種性血管内凝固症候群(DIC)が存在する場合、周術期における出血のリスクは非常に高くなるため、術前に薬物療法によってDICを是正しておくことが望ましいです。

具体的には、軽症(〜中等症)では、ヘパリン類(+濃厚血小板や新鮮凍結血漿の輸注による補充療法)が最も一般的ですが、一定の見解はありません。

線溶活性化が著しい場合には、蛋白合成酵素阻害剤(メシル酸ナファモスタット;フサン®など)の使用や、ヘパリン類とトラネキサム酸(トランサミン®)併用療法により良好な止血コントロールを得られる場合があります。

Ontachi Y, et al. Effect of combined therapy of danaparoid sodium and tranexamic acid on chronic disseminated intravascular coagulation associated with abdominal aortic aneurysm. Circ J. 2005; 69: 1150-3.


周術期以外にも、ステントグラフト治療後しばらく経過してエンドリーク(血液が瘤内へ漏れて流れ込むこと)がおこった場合や、ステントグラフトで治療された部位以外の血管で新たに病変が進行した場合にはより複雑な凝固線溶異常を呈することがあります。

外科治療の追加が可能な場合には随伴する凝固線溶異常の改善が期待できますが、手術適応がない症例で臨床症状(出血症状、微小血栓に伴う臓器症状、脳梗塞などの血栓症)がみられる場合には、より長期にわたる薬物療法を考慮することになります。

2012年1月よりヘパリンの在宅自己注射が保険適応となったことにより、ヘパリンカルシウム(ヘパリンカルシウムモチダ®あるいはカプロシン®)自己皮下注射単独療法あるいは
トラネキサム酸内服との併用療法による外来治療が可能となっています。

大動脈瘤・大動脈解離を基礎疾患とする慢性DIC患者に対しても有用かもしれません。

(続く)腹部/解離性大動脈瘤とDIC(5):実際の臨床



<リンク>
 

投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:22| DIC