金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2014年08月22日

悪性腫瘍(癌)と血栓症(3)癌の種類とVTE

悪性腫瘍(癌)と血栓症(2)VTE発症頻度 より続く


悪性腫瘍(癌)と血栓症(3)癌の種類とVTE


図1

<1年相対死亡率とVTE発症頻度>
同じ1年相対死亡率上にプロットされているのは同じ臓器の癌です。
♦、■、▲の3つの報告の情報から作成された図です。
左(死亡率が低い方)より、乳、前立腺、骨、大腸、造血器、脳、肺、膵の各癌です。
乳癌や前立腺癌ではVTE発症頻度が低く、膵癌、肺癌、脳腫瘍ではVTE発症頻度が高いです。
造血器悪性腫瘍は1つのみの報告からの情報ですが、比較的発症頻度が高いです。
(Blood. 2013; 122: 1712-23.より引用)


癌の種類によってVTEの発症頻度に差があることが知られています。

膵臓、脳、肺、卵巣の各癌では最も発症しやすいとする報告が多いです。

Walker AJ, et al. Incidence of venous thromboembolism in patients with cancer - a cohort study using linked United Kingdom databases. Eur J Cancer. 2013; 49: 1404-13.

Horsted F, et al. Risk of venous thromboembolism in patients with cancer: a systematic review and meta-analysis. PLoS Med. 2012; 9: e1001275.



悪性リンパ腫、骨髄腫、腎、胃、骨の各癌でも比較的発症しやすいです。

一方、乳癌や前立腺癌では発症頻度が低いです。

予後が悪くて転移しやすい生物学的に病勢がある癌においてVTEの発症が多いです。図は、癌の種類ごとに分類し、横軸に1年相対死亡率をとってVTEの発症を評価しています。

Timp JF, et al. Epidemiology of cancer-associated venous thrombosis. Blood. 2013; 122: 1712-23.

相対死亡率とVTE発症率の間には正相関がみられています。


癌の種類や病期のみならず、治療内容もVTEの発症に影響を与えています。

手術、化学療法、ホルモン療法、血管新生阻害剤、免疫調節剤、赤血球造血刺激因子製剤、赤血球輸血、中心静脈カテーテルは、いずれもVTEの発症を増加させることが知られています。

例えば乳癌に対して2年間のタモキシフェンのみの治療を行った群と、2年間のタモキシフェンと6ヶ月間の化学療法を併用した治療群を比較しますと、2年間のVTEの累積発症率は前者では2.6%、後者では13.6%でした。

Pritchard KI, et al. Increased thromboembolic complications with concurrent tamoxifen and chemotherapy in a randomized trial of adjuvant therapy for women with breast cancer. J Clin Oncol. 1996; 14: 2731-37.


このような癌関連因子とは別に、患者の要因、つまり高齢、長期臥床、VTEの既往、合併症の存在などによってもVTEの発症が増加します。


(続く)



<リンク>
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参考:血栓止血の臨床日本血栓止血学会HPへ)
 

投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:37| 血栓性疾患