金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2014年09月02日

悪性腫瘍(癌)と血栓症(12)骨髄増殖性腫瘍/血栓症の疫学

悪性腫瘍(癌)と血栓症(11)Khorana VTEリスク評価スコアより続く

悪性腫瘍(癌)と血栓症(12)骨髄増殖性腫瘍における血栓症の疫学

骨髄増殖性腫瘍(myeloproliferative neoplasmas:MPN)は、造血幹細胞レベルにおける異常のために、一系統以上の骨髄系細胞が腫瘍性に増殖する疾患群です。

MPNのなかで、真性赤血球増加症(polycythemia vera:PV)本態性血小板血症(essential thrombocythemia:ET)原発性骨髄線維症(primary myelofibrosis:PMF)は、臨床上血栓症や出血が問題になります。

特に、血栓症の合併は予後規定因子の一つとして重要です。


近年のMPN関連の話題の一つとして、JAK2遺伝子変異を挙げることができます。

JAK2遺伝子変異は、JAK2のエクソン12上にある1,849番目の塩基がGからTに変異を生じており、その結果617番目のバリンがフェニルアラニンに変換(V617P)しています。

PVの95%以上、ETやPMFの約60〜70%ではJAK2に遺伝子変異が生じています。

Tefferi A, et al. Myeloproliferative neoplasms: molecular pathophysiology, essential clinical understanding, and treatment strategies. J Clin Oncol. 2011; 29: 573-82.

その結果、サイトカインの刺激がない状態でもJAK2は常に活性化されるようになり、サイトカイン刺激によらない細胞の自律増殖が生じることになります。

JAK2は、血栓症との関連でも大変注目されています。


PVに関しての最大規模の疫学調査では、全死因の41%(1.5死亡/100人/年)は心血管疾患であり、その内訳は冠動脈疾患が全死因の15%、心不全8%、脳梗塞8%、肺塞栓8%でした。

非致死性の血栓症は、3.8回/100人/年であり、動脈血栓症と静脈血栓症は同程度でした。

Marchioli R, et al. Vascular and neoplastic risk in a large cohort of patients with polycythemia vera. J Clin Oncol. 2005; 23: 2224-32.

ETに関しての前向き試験では、致死性および非致死性の血栓症発症率は、2〜4%であり、動脈血栓症は静脈血栓症よりも2〜3倍多い結果でした。

Harrison CN, et al; United Kingdom Medical Research Council Primary Thrombocythemia 1 Study. Hydroxyurea compared with anagrelide in high-risk essential thrombocythemia. N Engl J Med. 2005; 353: 33-45.

Gisslinger H, et al; ANAHYDRET Study Group. Anagrelide compared with hydroxyurea in WHO-classified essential thrombocythemia: the ANAHYDRET Study, a randomized controlled trial. Blood. 2013; 121: 1720-28.

Carobbio A, et al. Risk factors for arterial and venous thrombosis in WHO-defined essential thrombocythemia: an international study of 891 patients. Blood. 2011; 117: 5857-59.

MPNに特徴的にみられる重症合併症として、内蔵性静脈血栓症があります。

Budd-Chiari症候群1, 062症例うちMPNに起因するのは40.9%、門脈血栓症855症例うちMPNに起因するのは31.5%と報告されています。

Smalberg JH, et al. Myeloproliferative neoplasms in Budd-Chiari syndrome and portal vein thrombosis: a meta-analysis. Blood. 2012; 120: 4921-28.


ETやPVにおいては、大血管の血栓症に加えて微小循環障害に起因する症状がみられることがあります。

具体的には、血管性頭痛、めまい、視力障害、末梢性知覚障害、先端チアノーゼ、先端紅痛症などです。

Elliott MA, et al. Thrombosis and haemorrhage in polycythaemia vera and essential thrombocythaemia. Br J Haematol. 2005; 128: 275-90.

PMFに関しては、707症例での検討があり、心血管死と非致死性血栓症(摘脾後の血栓症は除外)の発症は2.23回/100人/年でした。

動脈血栓症と静脈血栓症は同程度でした。

 Barbui T, et al. Thrombosis in primary myelofibrosis: incidence and risk factors. Blood. 2010; 115: 778-82.


(続く)

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参考:血栓止血の臨床日本血栓止血学会HPへ)
 

投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:53| 血栓性疾患