金沢大学・血液内科・呼吸器内科
※記事カテゴリからは過去の全記事をご覧いただけます。
<< 前のエントリトップページ次のエントリ >>
2009年02月24日

抗リン脂質抗体症候群とは:APS(1)


抗リン脂質抗体症候群の概念


抗リン脂質抗体症候群は、英語ではantiphospholipid syndromeです。頭文字をとって、しばしばAPSと略称しています。

抗リン脂質抗体症候群は、抗リン脂質抗体(antiphospholipid antibodies:aPL)という自己抗体が出現することにより血栓傾向となる極めて高頻度にみられる後天性疾患です(参照:先天性血栓性素因)。

この疾患は、管理人が学生時代には習わなかった疾患です。疾患概念としては比較的新しいと言えます。そのため、全ての臨床家にとって周知された疾患と言う訳ではありません。この疾患であるにもかかわらず診断のなされていない、いわゆる隠れAPSの患者さんが多数おられるのではないかと推測されます。
本疾患は、小児から高齢者まで幅広い年齢層で発症します。ただしこの中でも、不育症(習慣性流産)、若年性血栓症の患者さんに遭遇しましたら、真っ先に疑うべき疾患が抗リン脂質抗体症候群です。

本疾患では、以下が特徴的な臨床症状です。
1) 血栓症(thrombosis)を繰り返す(反復性血栓症)。
2) 不育症(pregnancy morbidity)。

不育症の内容
は以下の通りです。
1)    妊娠初期流産を繰り返す(習慣性流産:spontaneous recurrent abortions, SRA)。
2)    妊娠中期以降に母体内で胎児が死亡する(子宮内胎児死亡:intrauteral fetal death, IUFD)。
3)  妊娠中期以降に母体内で胎児の発育が遅れる(子宮内胎児発育遅延:intrauteral growth  retardation, IUGR)。
4)    重症の妊娠中毒症(最近は妊娠高血圧症候群:pregnancy induced hypertension,PIH,とも言います)のため、妊娠34週未満に胎児を娩出せざるを得なくなる。

 


抗リン脂質抗体症候群分類基準(Sydney Criteria)

臨床症状
1.    血栓
(ア)    血栓は動脈,静脈,微小循環血栓を問わず発症部位・臓器も問わない.
(イ)    血栓は画像的または病理学的に診断される.
(ウ)    病理学的には血管壁に炎症を伴わない血栓である.

2.    不育症:以下の妊娠合併症のいずれかを認める
(ア)    妊娠10週以降の胎児奇形を伴わない流産・死産が1回以上
(イ)    重症妊娠高血圧症候群または胎盤機能不全による妊娠34週未満の出産が1回以上
(ウ)    解剖学的,内分泌学的および染色体異常を認めない,原因不明の妊娠10週未満の流産が3回以上

検査成績

1.  ループスアンチコアグラント(LA):国際血栓止血学会診断基準による
2.  抗カルジオリピン抗体(aCL):血清(血漿)中のIgGまたはIgM型aCLが中等度以上陽性(IgG >40 GPL, IgM > 40 MPLまたは健常成人の99パーセンタイル以上を示す)
3.  抗β2-glycoproteinT抗体(aβ2GPT):血清(血漿)中のIgGまたはIgM型aβ2GPTが中等度以上陽性(健常成人の99パーセンタイル以上を示す)

*LA, aCL, aβ2GPTは12週間以上間隔を空けて陽性である必要がある。

 

抗リン脂質抗体症候群と診療科

抗リン脂質抗体症候群(APS)は、自己免疫疾患(膠原病)の一つです。
このため、抗リン脂質抗体症候群はリウマチ膠原病内科で診療される場合や、血液内科(血栓止血内科,血管内科)で診療されることが多いようです(金沢大学第三内科でも血栓止血分野のエキスパートが充実しますので,多くのAPSの患者さんの診療に携わっています)。

また,本疾患は全身臓器の血管で血栓症をきたしますので、多くの診療科と連携をとりあって診療にあたることになります。

1)脳梗塞、TIA:脳神経外科、神経内科
2)網膜中心(or分枝)動脈(or静脈)血栓症:眼科
3)深部静脈血栓症:血管外科
4)心筋梗塞、肺塞栓症、心臓弁膜症:循環器内科
5)手術後の深部静脈血栓症:整形外科、腹部外科、産婦人科
6)小児の血栓症:小児科
7)不育症:産婦人科 
8)網状皮斑、皮膚潰瘍:皮膚科
9)舞踏病、偏頭痛、てんかん、多発性硬化症様症状:精神神経科、神経内科
10)血小板数減少:血液内科
11)Budd-Chiari症候群、腸管膜動脈(or静脈)血栓症、門脈血栓:消化器内科、消化器外科
など

以上のように、ほとんど全ての診療分野で遭遇する可能性がある疾患です。どの専門領域に進んでもぜひ頭の片隅に置いておいてほしい疾患と言うことができます。

(続く)


(補足)医学部学生さんへ
抗リン脂質抗体症候群(APS)は医師国家試験にも出題されます。血栓症、流産のみならず、「網状皮斑」もキーワードになるようです。ループスアンチコアグラント(LA)や抗カルジオリピン抗体と言った検査も知っていませんと、正答できないと思います。

 

抗リン脂質抗体症候群(インデックスページ)クリック! 抗リン脂質抗体症候群の全記事へリンクしています。

血液凝固検査入門(インデックスページ) クリック! 血液凝固検査入門シリーズの全記事へリンクしています。

 


【シリーズ】先天性血栓性素因アンチトロンビン・プロテインC&S欠損症

1)病態 
2)疫学 
3)症状 
4)血液・遺伝子検査  ←遺伝子検査のご依頼はこちらからどうぞ。
5)診断 
6)治療

 

【関連記事】

先天性血栓性素因の診断

出血性素因の診断

血栓症と抗血栓療法のモニタリング

血栓性素因の血液検査(アンチトロンピン、プロテインC、抗リン脂質抗体他)

先天性アンチトロンビン欠損症の治療

 

 【リンク】

金沢大学 血液内科・呼吸器内科HPへ

金沢大学 血液内科・呼吸器内科ブログへ 

研修医・入局者募集へ 

投稿者:血液内科・呼吸器内科at 05:19| 血栓性疾患 | コメント(0) | トラックバック(0)

◆この記事へのトラックバックURL:

http://control.bgstation.jp/util/tb.php?us_no=426&bl_id=391&et_id=28286

◆この記事へのコメント:

※必須