金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2009年04月28日

トランサミン(5):APL、ATRA、副作用(血栓症)

トランサミン(4):線溶亢進型DICに対して から続く


【APL合併DICに対するトラネキサム酸投与の是非】

<APLと線溶亢進型DIC>

急性前骨髄球性白血病(acute promyelocytic leukemia:APL)は、典型的な線溶亢進型DICを発症します。DICに対して適切な治療が行われませんと、脳出血を含め、致命的な出血をきたすことがあります。


<APLとATRA>

急性白血病の中でも、APLに合併したDICの特殊性として、all-trans retinoic acid(ATRA)による治療が行われることがあります。ATRAは、APLの分化誘導としても有効であるが、APLに合併したDICに対してもしばしば著効します。しかも、APLの分化誘導に成功するよりも遥かに早く、DICの改善傾向をもたらすことも多いです(1〜2日くらいのこともあります)。これに伴い、出血症状も速やかに消退することがしばしば経験されます。


<APLにおける線溶亢進型DICの発症機序>

APLにおいてDICを発症する原因は、他の急性白血病と同様に、白血病細胞中に含有されている組織因子(tissue factor:TF)による外因系凝固機序の活性化と考えられています。

さらに、APLにおいて線溶亢進型DICを合併する理由は、APL細胞に存在するアネキシンIIの果たす役割が大きいと考えられています(関連記事)。アネキシンIIは、t-PAと、プラスミノゲンの両線溶因子と結合することが可能ですが、このことで、t-PAによるプラスミノゲンの活性化能が飛躍的に高まることが知られています。


<ATRAによるDICの変貌>

大変興味深いことに、APLに対してATRAを投与しますと、APL細胞中のTFが抑制されることに加えて、上記のアネキシンIIの発現も強力に抑制されることが知られています。このために凝固活性化と線溶活性化に同時に抑制がかかり、APLのDICは速やかに改善するものと考えられています。

ただし、ATRAによるアネキシンII発現の抑制は相当に強力であるらしく、APLの著しい線溶活性化の性格は速やかに消失します。APLの線溶亢進型DICの性格は、線溶抑制型DICに変貌します。


<ATRA投与時にはトランサミンは禁忌>

APLに対してATRAを投与している場合に、トラネキサム酸(商品名:トランサミン)を投与すると全身性血栓症や突然死の報告が多数みられます。
APLに対してATRAを投与している場合には、トラネキサム酸は絶対禁忌です。


(シリーズ完結)

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:27| 出血性疾患