金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2011年01月10日

後天性第V因子インヒビター

今回紹介させていただく論文は、日本検査血液学会雑誌からです。

日本検査血液学会は誕生してまだ若い学会なのですが、会員数の伸びに勢いがあり、ほのぼのとした感じもあります。管理人が好きな学会の一つです。

検査技師、医師、企業など多くの職種の方々の交流が密に行われており、この点でも意義深い学会になっています。

日本検査血液学会雑誌に、後天性第V因子インヒビターの1例が報告されていました。

 

「血尿が発見の糸口となった後天性第V因子インヒビターの1例

著者名:財川英紀 ほか。
雑誌名:日本検査血液学会雑誌 11: 316-320, 2010.


<論文の要旨>

症例は54歳女性です。

2009年2月、血尿を主訴に当院泌尿器科を受診、凝固検査においてPT 91.7秒(INR 8以上)、APTT 200秒以上と著明な延長を認め、Cross Mixing Testにおいて凝固時間の補正は認められずインヒビターパターンを示したため、血液内科紹介となりました。


精査の結果、第V因子活性3%以下、Bethesda法にて5.0 BU/mlと第V因子に対するインヒビターの存在が確認され、後天性第V因子インヒビターによる凝固障害と診断されました。

入院後プレドニゾロン投与による治療が開始され、急速にインヒビター活性は低下、約2カ月で凝固機能が回復し退院、外来観察となりました。本症例は自己免疫疾患や悪性腫瘍は否定的であり発生機所は不明なため、特発性と考えられました。

 

後天性第V因子インヒビター(この論文記載真内容から):

稀な疾患であり、高齢者に多く発症し、出血症状は軽度なものから致死的出血を呈するものまで様々で、インヒビター力価と出血症状が相関しないとの報告があり、基礎疾患に自己免疫疾患やリンパ増殖性疾患などの悪性腫瘍をもつ場合が多いが特発性のものも報告されています。

発症原因が明らかなものに、術中使用される牛トロンビン製剤との関連なども報告されていますが、現時点でインヒビター発生に関して明らかにされているのは一部で、病因の大半は未解決で発症を予測することはできません。

後天性第Vインヒビターの治療としては、免疫抑制療法血小板輸血(第V因子が血小板中に存在するため)による止血療法などが推奨されていますが、稀な症例のため明確な治療法は確立されていません。

 

【リンク】

血液凝固検査入門(図解シリーズ)

播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 21:53| 出血性疾患