金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2011年03月08日

後天性第V因子インヒビター(PT&APTT延長)

日本内科学会雑誌 に報告された、後天性第V因子インヒビターの症例報告を紹介させていただきます。


本疾患の診断がなされた場合、ウシトロンビンの使用後の発症が多いです。手術や内視鏡に伴い、
ウシトロンビンを使用することは少なくないと思いますが、凝固検査をすることはあまりないのが実状ではないかと思います。

本疾患も本当はそんなにまれな疾患ではないにもかかわらず、検査していないために診断されていないだけのことが相当あるのではないかと思っています。

 

「血痰、血尿で発症した後天性第V因子インヒビターの1例

著者名:大口裕人 他.
雑誌名:日本内科学会雑誌   100: 182-184, 2011.


<論文の要旨>

症例は63歳、女性です。乳癌、肺癌の既往があります。

感冒症状に続き、血痰、血尿が出現し、PTAPTTの延長を指摘されました。

第V因子インヒビターを認め、プレドニゾロン(PSL)1mg/kgで開始したところ、血痰、血尿は速やかに消失し、投与開始11日目にはPTAPTTともに正常化しました。

PSL漸減、中止後も再燃の兆しはみられていません。

本症例は、後天性第V因子インヒビター発症1年後の現在も乳癌、肺癌の再発はなく、これらの関与は否定的と考えられました。

 

後天性第V因子インヒビターの誘因として、手術、特にウシトロンビンの使用、悪性腫瘍、輸血、膠原病、抗生物質の使用、HIVや結核などの感染症が報告されていますが、約30%は特発性とされています。

本症例は、術後2年以上経過しており、ウシトロンビン使用歴もありませんでした。

乳癌、肺癌の既往がありましたが、第V因子インヒビター発症後も再発はなく、これらの関与は否定的と考えられました。

また、発症直前に感冒症状を認めたが、抗生物質の内服はありませんでした。

後天性第V因子インヒビターは、無治療で自然軽快する症例もある一方で、致死的出血を来すこともあり、PT、APTTの延長を伴う突然の出血傾向を認めた際は、本症も念頭に置く必要があると考えられました。

 

【関連記事】

プレドニゾロンが著効した後天性凝固第V因子インヒビターの症例 日本血栓止血学会誌 21 :391-394, 2010.

血尿が発見の糸口となった後天性第V因子インヒビターの1例 日本検査血液学会雑誌 11: 316-320, 2010.

先天性第V因子欠損症(重症)における出血症状が軽症である理由 Blood 115: 879-886, 2010.

血液凝固検査:血液内科試験問題

 

【リンク】

血液凝固検査入門(図解シリーズ)

播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:36| 出血性疾患