金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2014年03月31日

金沢大学呼吸器グループ紹介(2)肺癌グループ

金沢大学呼吸器グループ紹介(1)スタッフより続く。

呼吸器グループ紹介(2)
肺癌グループ


肺癌診療では基礎研究が臨床に近づいてきました。いわゆる”from bench to bed”が現実となってきます。

EGFR遺伝子変異が日常臨床に欠かすことができなくなり、ALK融合遺伝子検査も活発に行われるようになりました。

それに比例して分子生物学的知識が必要となり、基礎研究の知識・経験が臨床にも必要になってきています。

肺癌の診療が年々変化しているということを日々実感します。

最近の臨床研究はglobal studyが広がりつつありますが、問題はglobal studyにおける日本の立ち位置でしょう。

今の考え方では研究全体の10%強を日本の症例で行うというのが主流です。
たとえば1000例規模のglobal studyがあるとすると日本の症例はその10分の1強、100例ちょっと、ということになります。

金沢大学呼吸器内科では数多くの臨床試験に参加できるようになりました。
本邦で行われている大規模臨床試験の約半分の研究には参加しています。
個別の臨床試験のエントリー数でも国立大学病院としてはトップクラス、全体でもBest 10にもう少し、というところまで来ました。
これは病棟を担当している研修医、指導医、教官、外来担当医がすべて一致協力してくれた賜物と思っています。

我々独自の研究として木村先生が肺癌のバイオマーカー研究を再開しました。
我々は従来から腫瘍代替組織としての血液に注目しており流血中の循環DNAを収集しEGFR遺伝子変異の解析を行ってきました。
これをさらに進展させて、流血中の循環腫瘍細胞を採取し検討する、 liquid biopsyの研究を進めています。
これはなかなかライバルも多く大変なプロジェクトですが、みんなで頑張っていきたいと思います。

EGFR阻害剤はEGFR遺伝子変異陽性症例に目覚ましい腫瘍縮小効果が見られますが、1年前後ほどで耐性化し、次の治療法を選択しなければなりません。
酒井先生はこの問題を基礎的な観点から耐性克服に挑戦し、cMetという蛋白の過剰発現が原因でEGFR阻害剤が耐性となった肺癌細胞株を用いて、細胞障害性抗がん剤であるイリノテカンの標的分子のTopoisomerase Iが過剰発現していることを見出し、イリノテカンが高感受性になることを報告しました(Journal of Thoracic Oncology: 2012, 7. 1337–1344)。

この研究成果をもとに、現在黒川先生は、このcMet蛋白発現とTopoisomerase I蛋白発現の関連を普遍化すべく検討していて、近々結果が出てくることと思います。

イリノテカンは非小細胞肺癌のみならず、小細胞肺癌でもよく用いられている。むしろ小細胞肺癌でこそ使用頻度が多く、cMet蛋白とTopoisomerase I蛋白発現の関連は興味深いところです。

池田先生はこの点に着目し、小細胞肺癌の生検材料を用いてcMetとTopoisomerase I蛋白発現の関連を解析しました。
この解析からcMetの活性状態(リン酸化Met)とTopoisomerase I発現の間に関連のあることを証明しました。
面白いことにcMetは小細胞肺癌の予後因子であることも同定されました。

2012年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)ではimmune checkpointsに関わる大きな情報が発表されました。
腫瘍免疫の主体であるTリンパ球の調節因子であるPD-1という蛋白に対する抗体が特定の症例ではあるものの非常に大きな効果を発揮することです。我々は従来腫瘍免疫についてはあまり勉強してこなかったのですが(今までは効かなかったので)、中尾教授はこの道でも先達であられますので、ご指導いただきながら研究を進めていきたいと思っています。ここで感謝申し上げます。

またin house(グループ主導)の臨床試験として、EGFR遺伝子変異陰性非小細胞肺癌に対するErlotinibの有用性予測因子を探索する第II相試験、高齢者非小細胞肺がんに対するPEMとPEM+ベバシズマブの無作為化第II相試験、TS-1の維持療法の第II相試験など進行してきています。

肺癌化学療法は個別化医療へと向かっていると考えられますので、我々独自のデータを発信できるように皆、頑張っています。 

(続く)金沢大学呼吸器グループ紹介(3)間質性肺炎グループ

 
 
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播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)
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参考:血栓止血の臨床日本血栓止血学会HPへ)
 

投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:01| 呼吸器内科