金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2009年11月03日

悪性腫瘍(癌)とDIC:治療

悪性腫瘍(癌)とDIC:線溶亢進型DICの診断指針から続く

 

【悪性腫瘍DICの治療】

1)固形癌に線溶均衡型DICを合併した場合は、基礎疾患としての固形癌は相当に進行していることが多く、しばしば全身転移を伴っています。そのため、基礎疾患の治癒は期待できないことが多いです。

ただし、化学療法や免疫学的に抗腫瘍効果を期待できる治療法の開発などに伴い、進行癌であっても治療成績の向上が見込まれる時代となっている点については、以前の記事で書かせていただいた通りです。

良好にDICのコントロールを行うことによって、生命予後の大幅な改善を期待できる場合があります。

DIC経過が長く慢性DICの病態をとる場合には、24時間持続点滴で患者を拘束したくないことが多いため、管理人らはダナパロイド(商品名はオルガラン:半減期が約20時間と長いヘパリン類)による治療を行って有用であった症例を蓄積しています。

 

2)固形癌や造血器悪性腫瘍APLを除く)に線溶亢進型DICを合併した場合には、ヘパリン類単独で加療を行うと反って出血を助長することもありますが、凝固活性化のみならず線溶活性化も同時に十分阻止するような治療は、出血症状に対してしばしば著効します。

具体的には、メシル酸ナファモスタット(FUT<フサン>:抗トロンビン作用のみならず抗プラスミン作用も強力な合成プロテアーゼインヒビター)や、ヘパリン類&トラネキサム酸併用療法は、線溶亢進型DICの出血症状に対して極めて有効です。

ただし、DICに対するトラネキサム酸(商品名:トランサミン)などの抗線溶療法は、血栓症の合併や、臓器障害の報告があり、適応や使用方法を誤ると重大な合併症をきたすことになります(死亡例の報告もあります)。線溶亢進型DICの病態診断指針は誤った抗線溶療法の適応を避ける上でも重要と考えられます(線溶亢進型DICの病態診断)。線溶亢進型DICの病型診断に確信を持てない場合には、メシル酸ナファモスタット(フサン)による加療が無難です。

 

3)線溶亢進型DICを合併したAPLに対しては、ATRA(APL)による分化誘導療法がDIC治療を兼ねています。ATRAは、APL細胞における組織因子の発現を抑制したり、トロンボモジュリンの発現を亢進することによって凝固阻止的に作用するばかりでなく、アネキシンIIの発現を抑制することによって線溶阻止的にも作用します。

ただし、ATRA症候群の合併や化学療法の追加により線溶亢進型DIC(DICの病型分類)が再燃することもあります。その場合にはメシル酸ナファモスタット(フサン)による加療が必要となります。

昨年より、遺伝子組換えトロンボモジュリン製剤(製品名:リコモジュリン)の使用が可能になりました。

 

 Saito H, Maruyama I, Shimazaki S, Yamamoto Y, Aikawa N, Ohno R, Hirayama A, Matsuda T, Asakura H, Nakashima M, Aoki N: Efficacy and safety of recombinant human soluble thrombomodulin (ART-123) in disseminated intravascular coagulation: results of a phase III, randomized, double-blind clinical trial. J Thromb Haemost 5: 31-41, 2007.

 

本薬は、重症感染症(線溶抑制型DIC)、造血器悪性腫瘍(線溶亢進型DIC)のいずれに合併したDICに対しても有効であり、固形癌(線溶均衡型DIC)に合併したDICに対しても有効であることが期待されています。

 

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:36| DIC | コメント(0)

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