金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2011年02月25日

医師国家試験問題(105回):血液内科 (血栓止血)/臨床問題1

血液内科(血栓止血領域)の医師国家試験問題(第105回)問題を紹介させていただきます。

今回は臨床問題です。


40歳の女性.動悸と息切れとを主訴に来院した.10日前から月経出血が止まらず,出血量もこれまでより多かった.さらに数日前から階段を昇るときに息切れと動悸とを感じるようになった.

脈拍96/分,整.血圧120/78mmHg.皮膚は蒼白で前胸部と下腿とに点状出血を認める.心音と呼吸音とに異常を認めない.腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない.

血液所見:赤血球250万,Hb 7.5g/dl,Ht 24%,網赤血球3%,白血球8,800(骨髄球1%,桿状核好中球9%,分葉核好中球55%,好酸球1%,単球9%,リンパ球25%),血小板3,000.

骨髄血塗抹May-Giemsa染色標本を別に示す(省略:巨核球が増加している骨髄像).
 

 最も考えられるのはどれか.

a 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)
b 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)
c 急性骨髄性白血病
d 慢性骨髄性白血病
e 再生不良性貧血



(解説)

a 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の五主徴は、1)血小板数減少、2)溶血性貧血(赤血球破砕像)、3)動揺する精神症状、4)腎障害、5)発熱、です。特に、2)3)はTTPに特徴的な所見です。

b 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)は、血小板数の低下に伴う出血症状が特徴的です。出血に伴う貧血を合併することがあります。

c 急性骨髄性白血病では、骨髄抑制のためしばしば血小板数が低下しますが、芽球が骨髄や末梢血液で出現します。

d 慢性骨髄性白血病では、白血球数は著増します。血小板数はむしろ増加します(ただし急性転化しますと血小板数は低下します)。

e 再生不良性貧血では、汎血球減少症となります。骨髄での巨核球は減少します。

 


(診断)

特発性血小板減少性紫斑病(ITP)

 

(正解)


(参考)

特発性血小板減少性紫斑病 (idiopathic thrombocytopenic purpura: ITP)

血小板に対する自己抗体が産生され、血小板の破壊(脾で)が亢進し、血小板寿命は短縮し出血傾向をきたします。

小児科領域では先行感染を伴った急性型が多いのに対して(しばしば自然治癒する)、内科領域では先行感染のない慢性型が多いです(女性に多いです)。


【症状】 点状出血、粘膜出血など。


【検査&診断】

・血小板数の低下(PT&APTTは正常)(参考:血液凝固検査入門)。
・他血液疾患の除外(除外診断)。特にMDSは確実に否定。
・骨髄巨核球の増加。
・血小板結合性IgG(PAIgG)の上昇。


【治療】

必ずしも早期診断・治療が当てはまらない。
1)血小板数が数万以上では無治療で経過観察.
2)血小板数が2-3万以下で出血があれば、副腎皮質ステロイド。
3)無効例では、摘脾術を考慮。摘脾術に際して、免疫グロブリン大量療法。
4)免疫抑制療法。
5)ピロリ菌の除菌療法 :最近のITP治療のトピックス。今や、ITPの第一選択の治療。


【備考】

ITPと抗リン脂質抗体症候群(APS)の合併あり。摘脾術時の術後血栓症に注意。


【注意】

偽性血小板減少症(EDTA存在下でのみ血小板が凝集、知らないとITPと誤診されます。病気ではありません。出血なし。骨髄穿刺不要)

EDTA以外の抗凝固剤(例:ヘパリン、クエン酸ナトリウム)で、血小板凝集塊の形成がなくなり、真の血小板数を知ることができます。

 

【リンク】

血液凝固検査入門(図解シリーズ)

播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)

金沢大学血液内科・呼吸器内科HP

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:40| 医師国家試験・専門医試験対策