金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2013年01月31日

出血傾向(7):医師国家試験対策 (紫斑、胆石)

出血傾向(6):医師国家試験対策 (鼻出血、出産時大量出血)より続く

参考:血栓止血の臨床日本血栓止血学会HPへ)


【臨床問題(2)】

48歳女性。2週間前から右季肋骨部痛が出現するようになり、近医にて抗生剤を含む投薬を受けた。5日前から四肢、胸腹部などに紫斑がみられるようになった。本朝から紫斑が広範囲(びまん性出血)となり、血尿、歯肉出血もみられるようになったため来院。



既往歴:特記すべきことなし。



家族歴:特記すべきことなし。



現症:意識は清明。身長158cm、体重52kg。四肢、胸腹部に紫斑が広範囲にみられる。右季肋骨部痛あり。

検査所見:

赤血球383万、Hb11.8g/dl、白血球12,700、血小板21.1万

PT 23.6秒(基準10〜14)、APTT 39.2秒(基準対照32.2)、フィブリノゲン450 mg/dl(基準200〜400)、FDP 6μg/ml(基準10以下)

ALT 35単位、LDH 239単位(基準176〜353)、クレアチニン 0.7 mg/dl 、CRP 8.2 mg/dl(基準0.3以下)。

出血時間正常、PIVKA II陽性。

腹部エコー検査で胆石が確認された。



まず行うべきことは何か。

a. 内服薬の確認
b. 造影腹部CT
c. 第VII因子の測定
d. ビタミンK製剤の点滴
e. トラネキサム酸の内服


(症例)
・全身皮膚の紫斑、血尿、歯肉出血。出血傾向は明らかに悪化しています。
・右季肋骨部痛は、胆石のためと考えられます。


(解説)

紫斑、血尿、歯肉出血という全身性の出血傾向がみられます(出血傾向は悪化しているようです)。

・胆石のためと思われる右季肋骨部痛があり、胆道感染症を合併したのでしょうか、抗生剤の投与が行われています。

・血液検査では、炎症反応のため、白血球数増加、CRP上昇、フィブリノゲン上昇の所見がみられています。

・凝固検査では、PTの著しい延長がみられており、 PIVKA II(ビタミンK欠乏状態で誘導されるプロトロンビン)が陽性です(PIVKA IIは、肝細胞癌の腫瘍マーカーとしても知られていますが、ビタミンK欠乏でも陽性となります)。

・ビタミンK欠乏症と考えられます。ビタミンK依存性凝固因子として、半減期の短い順番に、VII、IX、X、IIの4因子が知られています(凝固阻止因子で あるプロテインC、プロテインSもビタミンK依存性)。

・ビタミンK欠乏症では、半減期が最も短いビタミンK依存性凝固因子である第VII因子が最も早く低 下するため、まずPT(第VII因子も反映)が延長し、さらに進行するとAPTT も延長します。


(最初に行うべきこと)

・本症例は出血傾向が悪化しており、脳出血などの致命的な出血をきたすことのないように一刻も早い治療が行われるべきです。出血傾向と関連した内服薬としてはNSAIDが有名ですが、本症例では関係ありません(参考:出血傾向(血液検査):医学コアカリ対応)。

・造影腹部CTにより胆石の再確認を行うことができて、血尿の原因もみつかるかも知れませんが、即刻行うべき検査ではありません。

ビタミンK欠乏症に伴う第VII因子活性の低下が予想されますが、診断や治療方針に影響を与えることはないです。また、凝固因子活性は即日結果の出ない病院の方が多く、この結果を待っていては早期治療を逸してしまいます。

・ビタミンK製剤の点滴をまず行うべきです。PTは半日後には正常化するために、治療診断としての意義も大きいです。

・なお、ビタミンKは脂溶性ビタミンであ るため、その吸収には胆汁が必要です。本症例は閉塞性黄疸を合併している可能性があり、ビタミンKは経口投与ではなく、経静脈的に投与するのが肝要です。

トラネキサム酸(トランサミン)は出血症状に対してしばしば処方されますが、血尿が有る症例に対して用いると、尿路での凝血塊が溶解せず腎後性腎不全をきたす可能性がるため、勧められません。


(考察)

1)家族歴、現病歴:先天性出血性素因は否定的(参考:先天性凝固因子異常症)。

2)身体所見(症状):全身の各部からの出血がみられます。紫斑はびまん性出血であり、血小板の問題ではなく凝固異常と考えられます

3)検査:血小板数も出血時間も正常です。血小板機能にも問題ありません。PTは著明に延長していますが、APTTは軽度延長に留まっています。ビタミンK欠乏症の特徴的なパターンです。

4)出血症状が悪化しているため、早々に治療を開始する必要があります。ビタミンK製剤の点滴により、PTは速やかに正常化して出血傾向も消退することが期待されます。出血傾向が無くなったあとは、胆石の治療が必要になるでしょう。

 

(正答) d

(続く)出血傾向(8):医師国家試験対策 (抜歯時異常出血、紫斑)

 

<リンク>

血液凝固検査入門(図解シリーズ)
播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)
金沢大学血液内科・呼吸器内科HP
金沢大学血液内科・呼吸器内科ブログ
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:43| 医師国家試験・専門医試験対策