金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2013年02月01日

出血傾向(8):医師国家試験対策 (抜歯時異常出血、紫斑)

出血傾向(7):医師国家試験対策 (紫斑、胆石)より続く

参考:血栓止血の臨床日本血栓止血学会HPへ)


【臨床問題(3)】

78歳の男性。抜歯時に止血困難をきたしたため、精査目的に来院した。

既往歴:特記すべき事なし。

家族歴:特記すべき事なし。

身体所見:腹部に拍動性腫瘤を触知し、bruitを聴取した。また、抜歯部位からの出血が持続していた。全身皮膚に斑状出血が散在していた。

血液学的検査:

白血球 6,800、赤血球 387万、Hb 10.6g/dl、血小板 5.6万、ALT 32単位(基準35以下)、クレアチニン 0.8mg/dl、LDH 235単位(基準115〜245)

PT 16.3秒(基準10〜14)、APTT 35.8秒(基準対照32.2)、フィブリノゲン128 mg/dl(基準200〜400)、CRP 0.2 mg/dl(基準0.3以下)、PIVKA-IIは陰性。


まず行うべき検査は何か。

a. 下肢静脈エコー
b. 血管造影検査
c. Dダイマー
d. 骨髄穿刺
e. ADAMTS 13活性


(症例)
・抜歯時に止血困難
・全身皮膚の斑状出血


(解説)

・抜歯をきっかけに明瞭化した出血傾向です。紫斑もみられています。
・ 身体所見が特徴的で、腹部に拍動性腫瘤を触知、bruitを聴取しており、腹部大動脈瘤の存在が疑われます。
・腹部大動脈瘤の患者で出血傾向がみられたら、まず播種性血管内凝固症候群(DIC)線溶亢進型DIC)を疑います。血小板数低下、PT延長、フィブリノゲン低下は、いずれもDICに伴う所見です。あとは、DIC診断にもっとも重要な検査であるFDP、Dダイマーの測定を行えば良いことになります。


(最初に行うべきこと)

・本症例は、線溶亢進型DICが原因となった出血傾向と考えられます。FDP、Dダイマーの測定を行ってDIC診断を確定することが最も重要です。

・線溶活性化が強いタイプのDICの基礎疾患としては、急性前骨髄球性白血病(APL)、大動脈瘤、巨大血管腫、前立腺癌、常位胎盤早期剥離、羊水塞栓などが知られています。血小板数が比較的保たれていても出血症状が強いことが特徴ですが、臓器症状はあまりみられません。

深部静脈血栓症(DVT)(下肢静脈エコー検査で診断されます)でも、FDP、Dダイマーの上昇がみられますが、本症例ではまず行うべき検査ではないです。

・血管造影検査によりも、非観血的検査である造影CTの方が優先されます。

・骨髄穿刺は行っても、特に新たな情報は得られません。しかも、充分に注意しないと穿刺部位に血腫を形成する可能性があります。

・ADAMTS 13活性は、TTPの診断に重要ですが、DICでは敢えて測定しません。

・FDP、Dダイマーの測定を行ってDIC診断を確定した後は、トロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT)、プラスミン-α2プラスミンインヒビター 複合体(PIC)、α2プラスミンインヒビター(α2PI)などの測定を行い、DICの病型が線溶亢進型であることを確認したいです。DICの病型により、治 療方針が変わってきます。

(考察)
1)家族歴、現病歴:先天性出血性素因は否定的(参考:先天性凝固因子異常症)。

2)身体所見(症状):紫斑は斑状出血であり、血小板の問題ではなく凝固異常と考えられます。

3)検査:血小板数は低下しています。加えて、フィブリノゲンの低下が著しいです。FDP、Dダイマーの上昇が予想されます。また、TATPICは上昇して、α2PIは低下していることが予想されます(動脈瘤に合併した線溶亢進型DIC)。

参考:線溶関連マーカー

4)FDP、Dダイマーの確定診断、線溶亢進型DICの病型診断の後は、メシル酸ナファモスタット(商品名:フサン)などによるDICの加療を行います。また血管外科へ手術適応についてコンサルトします。


(正答)
c

 

(続く)出血傾向(インデックス):医師国家試験対策

 

<リンク>

血液凝固検査入門(図解シリーズ)
播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)
金沢大学血液内科・呼吸器内科HP
金沢大学血液内科・呼吸器内科ブログ
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:25| 医師国家試験・専門医試験対策