金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2013年06月10日

医師国家試験:血小板数低下、凝集像

医師国家試験対策

24歳の女性

昨年、職場の定期健康診断で血小板数の軽度低下を指摘された。その他の結果に異常はなかった。

今年の健康診断でも同様の指摘があり、精査を勧められて来院した。

生来健康で、これまで紫斑や鼻出血などはなく、月経にも異常を認めない。

身体所見に異常はない。

血液所見:赤血球460万、Hb13.5g/dl、Ht40%、白血球6,700、血小板8万。

末梢血塗抹May-Giemsa染色標本:多数の血小板が凝集した像。

 

【ポイント】

24歳の若い女性で、健康診断で血小板数の低下を指摘されていますが、紫斑鼻出血過多月経などは一切なく、何ら出血症状はみられていません。



【病態】

血小板数は低下していますが、貧血はなく白血球数も正常です。その他の全ての検査が正常と推測されます。

末梢血液像が特徴的であり、血小板の凝集している像が観察されています。

血小板数を含む血球数は自動血球測定機器でカウントされますが、この機器は血小板の大きさで血小板と認識するために、血小板凝集塊は血小板とは認識されません。

この現象を偽性血小板減少症と言っています。

生体内で血小板凝集が起きている訳ではなく疾患ではありません。

血球計算用の採血管に含まれるEDTA存在下でみられる現象で、0.03〜0.1%程度の出現率と言われます。

偽性血小板減少症という現象を知らないと(血小板数1万と本症例よりもはるかに著減してカウントされることもあります)、特発性血小板減少性紫斑病性(ITP)と誤診される可能性があります。

もちろん、骨髄穿刺の痛い検査は必要ありませんし、治療も必要ありません。


<血小板数低下をきたす疾患・病態>


 1. 血小板破壊の亢進
・    播種性血管内凝固症候群(DIC)
・    特発性血小板減少性紫斑病性(ITP)
・    血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)溶血性尿毒症症候群(HUS)HELLP症候群
・ ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)
・ 抗リン脂質抗体症候群(APS)
・ 体外循環 など

2. 骨髄抑制をきたす病態
・    造血期悪性腫瘍(急性白血病、慢性骨髄性白血病の急性転化、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫の骨髄浸潤など)
・    血球貪食症候群
・    固形癌(骨髄浸潤有り)
・    骨髄抑制を伴う化学療法&放射線療法中
・    薬物に伴う骨髄抑制
・    一部のウイルス感染症
・    造血期悪性腫瘍以外の一部の血液疾患(再生不良性貧血、発作性夜間血色素尿症、巨赤芽球性貧血など)

3. 肝不全、肝硬変、脾機能亢進

4. 敗血症

5. Bernard-Soulier症候群、May-Hegglin症候群、Wiskott-Aldrich症候群

6. 希釈
・ 大量出血
・ 大量輸血、大量輸液
・ 妊娠性血小板減少症 など

7. 偽性血小板減少症(疾患ではない)

8. その他



【対応】

通常は血球計算用の採血管はEDTA入り試験管ですが、敢えてクエン酸ナトリウム入りの採血管(血液凝固検査で用いられます)やヘパリン入り採血管を使用して血小板数をカウントしますと、この現象は解除されます。



【参考】

血小板数が低下しているにもかかわらず、全く出血症状がない場合には偽性血小板減少症を疑って、末梢血液像を確認したり、クエン酸ナトリウムまたはヘパリン入り試験管を用いて再検します。


<リンク>
 

投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:14| 医師国家試験・専門医試験対策