金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2012年02月23日

医師国家試験:血小板数低下

医師国家試験:血小板数増加より続く。

106回医師国家試験の問題紹介を続けさせていただきます。

 

【設問】

45歳の男性。意識障害のため搬入された。

5日前から38℃台の発熱が続いていた。昨日から傾眠状態となり、次第に増悪してきたため家族が救急車を要請した。下痢と血便とはなかったという。

意識レベルはJCSII-30。身長158cm,体重59kg.体温39.0℃.脈拍88/分,整.血圧110/70mmHg.呼吸数28/分.皮膚に出血斑を認める。

尿所見:蛋白2+,潜血2+.

血液所見:赤血球138万,Hb 4.1g/dl,Ht 16%,白血球8,000,網赤血球5%,血小板1.2万,PT 97%(基準80〜120),APTT 32秒(基準対照32).血液生化学所見:総蛋白6.9g/dl,アルブミン3.3g/dl,尿素窒素24mg/dl,クレアチニン0.9mg/dl.

心電図と胸部X線写真とに異常を認めない。

末梢血塗抹May-Giemsa染色標本(略):赤血球破砕像あり。血小板がほとんど見られていない。
 

治療として適切なのはどれか
a 血小板輸血
b 抗DIC療法
c 血漿交換療法
d Helicobacter pylori除菌
e 免疫グロブリンの大量投与


【解説】

意識障害、発熱、血小板数減少(ただしPTAPTTは正常)、貧血(赤血球破砕を伴う)が見られています。特に、赤血球破砕像は特徴的で、血栓性微小血管障害症(thrombotic microangiopathy:TMA)と考えられます。  

本症例では、腎機能障害はみられていません(HUSではありません)。

PTAPTTは正常です。

おそらくDICではないとの出題者の意図であると思われますが、本当はPT、APTTのみではDIC合併を否定しきれあせん。

実臨床では、DIC合併の有無のチェックのためにはFDP、DダイマーTATなどの測定が不可欠です(参考:DIC図解シリーズ )。


診断は、血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura:TTP)です。


a 血小板輸血は、TTPに対して禁忌です。
b DICではないので、DICの治療は行ってはいけません。
c 血漿交換療法は、TTPに対するfirst choiceです。
d Helicobacter pylori除菌療法は、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)に対して行われることがあります。
e 免疫グロブリンの大量投与は、ITPに対する摘脾術に先立ち、一過性に血小板数を上昇させる目的で行われることがあります。


TTPでは、微小血管内皮障害、および血小板活性化が原因となって、微小な血小板血栓が多発し、血小板数低下に伴う出血傾向とともに、動揺する精神症状をきたします。

多発した微小血栓間を通過するため、赤血球破砕し溶血性貧血の所見もきたします。

<TTPの五主徴>
1.    血小板数減少
2.    溶血性貧血(赤血球破砕像)

3.    動揺する精神症状

4.    腎障害

5.    発熱

TTPの発症機序が近年明らかになりました。

ADAMTS13(von Willebrand因子(vWF)切断酵素(vWF-CP)とも言います)に対する自己抗体が出現することにより、この酵素活性が著減します。

その結果、unusually large vWFが出現し、血小板凝集が進行します。

溶血性尿毒症症候群(HUS)では、この自己抗体の出現はありません。


【正解】c 

 

 (続く)医師国家試験:ビタミンK依存性凝固因子


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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:38| 医師国家試験・専門医試験対策